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もしも。
・・・・もしも、だよ。
自分の好みの外見をした男性がある日突然現れて、君と暮らす、と言ったらどうする?
にっこりと微笑んで、瞳を細める。
そして手を伸ばして言うの。
どうぞ、宜しく、って。
あたしはその当時悲嘆に暮れていて、現実世界から遠ざかりたい気分だった。
そしたら強制的に夢の世界へ。・・・えーっと、つまり、現実にはいるんだけど、夢のような世界へってこと。
ま、とにかく。
あれは花冷えの春のある日の深夜。
あたしが遺産で貰った小さな家の部屋に入っていくと、いきなり現れた彼が言ったのだ。
いえ、提案した、かな。
いやいや、命令した、だわ。正しくは。
だって、口を開いた最初の言葉はこれだった。
「俺のいう通りにしろよ」
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「俺のいう通りにしろよ」
整った顔をあたしの目の前に近づけて、彼が言った。
「・・・へ・・・?」
あたしはしばし呆然となる。
「へ、じゃなくて、はい、だろ?俺は今日からここに住む。お前は俺のいうことをきく。判った?」
彼はあたしの開いたままの口元に長い指をのばし、ゆっくりと親指の腹で唇を撫でた。
ぎょっとして飛びのく。顔面が赤くなったのが判った。
―――――――理不尽だ。
頭では、それを理解していた。
こんな上から言われなきゃならないことはない。第一ここはあたしの家だし、この人の面倒を見なきゃいけないような義務はないし。
だけど、うっとりするような低音ボイスで無邪気かつストレートに淡々と言われると、当然、あたしはそうすべきだろう、などと思ってしまった。
大体、彼は彼だ。
魔法にかかったみたいだった。
あたしを見下ろす茶色の瞳を見詰めたままで、小さく頷いた。
何もかもがあたし好みの美しい顔に優しい微笑をうっすらと浮かべて、彼は言った。
「じゃ、それで。よろしくな、サツキ」
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