第1章 指先の秘密

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1、おばあちゃんの魔法  おばあちゃんが死んだ。  10日前、長くて寒い冬がやっと終わりに近づいていて、強張った体も解れてくるかなって日の昼下がり、あたしは臨終前のおばあちゃんの病室にいた。  ベッドに横たわるおばあちゃんは白い顔色で、しわくちゃで、そして微笑んでいた。  あたしに会いたいと言ってると電話がきて、職場からすっ飛んできたのだ。  小さい頃から馬があったおばあちゃんが、あたしの一番の理解者で味方だった。  あたしは泣くことも忘れておばあちゃんの冷たい手を握る。 「皐月ちゃん、いいものをあげようねえ・・・」  おばあちゃんは真っ白の顔のままにこにこ笑っていた。 「・・・遺言なら聞かないよ」  あたしはぶすっとしていう。表情を変えたら涙が出そうだった。  違うのよ、と小さい声で言って、おばあちゃんの左手を握るあたしの手に右手を乗せた。 「・・・知ってるでしょう、おばあちゃんが魔法を使えるの。もうすぐ、使えなくなるこの力を皐月ちゃんに使ってからおじいちゃんに会いにいくことにするわ」  そして27歳になった孫のあたしを見上げて、こう言ったのだ。 「・・・・素敵な恋に身を焦がしな さい。わたしの力が消えるまでは、守られるはずだから」 「・・・・おばあちゃん、何言ってるか判らない。あたし、別に彼氏なんていらないし」  死ぬ前に結婚を急かされてるのかと思ったあたしはちょっと呆れて言った。  するとおばあちゃんは小さく笑って、鈴が鳴るみたいに笑って、あたしの左手を握り締めた。 「・・・素晴らしい恋は人生の宝物よ・・・」 そして手を離し、春の光りが差し込む窓に枕の上で顔を向けた。 「・・・さあ、他の人たちを呼んでくれる?そろそろだと、思うから・・」  おばあちゃんの最期は本当に静かで、綺麗で、素敵だった。  人間は皆いつか死ぬんだ、でもどうせ死ぬなら、そのいつかはこんな風に死にたいと思うような、素敵な眠り方だった。  だけど、あたしはそれ以来胸の中に喪失感を感じていた。  病気になったおばあちゃんの看病のために正社員を辞めてアルバイトをしていたから、それ以外の時間はやることもなくなってしまい、ひたすら呆然と座り込んでいた。
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