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 二月十四日はバレンタインデーといって、女性が愛を告白する日となっている。製菓会社の商業戦略だと誰しもが知っているが、皆嬉々としてこの日本独自の習慣を楽しんでいる。  侃(あきら)もこの習慣を知ってはいたが、小学生、中学生までもがチョコレートを渡しているのには驚嘆した。自分が沢山のチョコレートを貰った時はさらに驚いた。  あの時代はこんな習慣がなかったし、そもそも女から男に思いを打ち明けること自体、滅多になかった。そういう時代だったのだ。  中学三年ともなると、少女達の告白は一層熱を帯びたものになってくる。  放課後、午後の光が差し込む教室で、侃は告白をされていた。 「侃君、私あなたのことが好きなの」  上気した顔でそう言うクラスメートは、早くも女の顔をしている。やれやれ・・・。そんな気持ちはおくびにも出さず、 「ごめんね。君の気持に答えられなくて・・・」  侃は目を伏せた。長い睫毛が影を落す。 「他に好きな人がいるの?」  畳みかけるように訊いてくる。全く。昨今の婦女子は積極的にすぎる・・・。 「今はそういう気持ちになれないんだ・・・」  黒曜石のような瞳を潤ませてそう答えると、少女は顔を赤らめた。 「私がその人の替わりになったらだめ?」  全くもって、思春期の思い込みほど厄介なものはない。 「本当にごめん」  こういう時はさっさとその場を立ち去るに限る。侃は教室を後にした。
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