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「真紀さん、ただいま!」  侃は家政婦の真紀に元気よく挨拶をした。子供らしい振舞いもすっかり板についた。 「お帰りなさい! まあ、すごい」  真紀は侃の抱えている大きな紙袋を見ると、目を丸くした。 「侃君、モテるのね」  小さな子供を抱えているシングルマザーの真紀は、若いせいもあって、侃に気さくに話しかける。主人と対等の口をきくなど昔の召使では考えられないことだが、これも今風なのだろう。 「お返し、今年も真紀さん、よろしくね」  苦笑しながらそう答えた。由紀の選ぶものは若い女の心を捉えるらしい。値の張りすぎる物は学生らしくないから、一人1000円と相場を決めている。  掃除は専門の業者に頼んでいるから、真紀の仕事は食事の支度とその後片付けくらいだ。料理はなかなかの腕前だし、気さくな真紀は、こうした雑務を頼んでも快くやってくれる。  侃は制服を着替えると、早速リスト作りに取り掛かった。手際よくカードを取り出し、ゾーリンゲンのペーパーナイフで封を開く。舞依? 分からない名前は学年名簿で調べる。学年とクラスを明記し、五十音順に並べたリストを作り終えると、包みをもう一度紙袋に入れた。 「これ、皆さんでどうぞ」  帰ろうとしている真紀に、紙袋を差し出した。 「全部?」 「僕、チョコレート苦手だから」  侃はいかにも困惑したような笑みを浮かべながら、言った。 「そうなの。ありがとう!」  真紀が帰ると屋敷は侃一人だ。住み慣れた屋敷が妙に広く感じるのは、思春期特有の不安定な心身状態だからだろうか・・・。侃はぼんやりと窓の外を見つめていた。
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