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デパートの屋上で汽車に乗り、ソフトクリームを食べさせてもらった泰己はご機嫌だ。今はペットショップの大きな金魚を夢中になって見つめている。
時折、泰己の方を見て、声をかけながら、ベンチに腰かけた暁子はほっと溜息をついた。
「泰己君、一人で平気?」
「ちゃんと見てるから大丈夫。子供はね、放し飼いにしないと、いい子にならないのよ」
二歳児の母は、一端のベテランのような顔をして、自信ありげに言った。
「そんなもんなんだ」
「うん。それにね、泰己はああやって夢中になってると、そこから引き離す方が大変なんだから」
泰己は自分の指の動の動きについて同じに泳ぐ魚が面白いらしく、水槽から離れようとしない。
「集中力は暁子譲りなんじゃない?」
「そうかもね。見た目は智にそっくりだけど。この二年間はホント、忙しかったわ。あと一年頑張れば幼稚園よ!」
「結婚したら泰己君、なんだもの。びっくりしたわ」
「玄関開けたら二分でご飯、みたいな言い方しないでよ。智もびっくりして、両方の親が大騒ぎになったけど。今は両方のじい、ばあが泰己の取り合いよ」
暁子はクスリと笑った。
「たくましいわねえ」
「相手決めたら、先延ばしにする必要もないかなって思って。両親が元気なうちに産んじゃうとラクチンよ」
二人とも学生だから、住居は以前のままだ。泰己は、両家のマンションを行ったり来たりしているらしい。
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