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土師がため息を吐き、苦虫をかみつぶしたような目で、救急車に乗せられる女性の姿を見た。
救急隊員が必死に女性へ呼びかけるが、女性は薄目を開けるだけで、まるで反応しない。
(あれも暫く目を覚まさないな)
「どっちっすかね」
茶髪の刑事が、土師に耳打ちする。
「感染源だな。タタリを壊されている」
「はぁ……俺は普通に気絶してるのと見分けがつかないんですけど」
「見えるようになれば、わかるようになる」
「そりゃ遠慮したい」
「ともあれ、今回も手掛かりなしだ。引き上げるぞ」
「うっす」
釘女と対峙し、黒猫の連れ合いができた夜、スイは漫画喫茶の個室で夜を明かすことにした。
「おお、結構いい部屋だね」
一晩三千円の個室。天井まで壁で仕切られ、パソコンと大型テレビが置かれている。六畳間ほどの広さだが、スイの暮らしていた部屋も大差ない広さだ。窮屈には感じない。
「ほら、出ておいで」
肩にかけていたカバンのファスナーを開けると、するりと黒猫が飛び出し、伸びをしながら、女子学生の姿を頭上に出現させる。
少女は出現すると同時に、深々と頭を下げた。
『助かりました。ありがとうございます』
「いやいや。たまたま居合わせただけだよ。それにしても、なんで猫から?」
『この体は借り物でして。私、第二世代感染者ですから』
「第二? 感染者?」
ごそごそと、スイがカバンに手を入れる。
『あれ? 知りませんか? 一時期ニュースで毎日やってたじゃないですか』
「いつぐらい?」
『三年くらい、でしょうか』
「じゃあ僕は知らないな。寝てたから」
笑いながら、スイは缶詰を取り出し、ふたを開ける。
バッグと一緒にスーパーで買った、一つ百円の焼き鳥の缶詰だ。
「君にはこっち」
と黒猫の前に置いたのは、猫用の缶詰だ。こちらは三百五十円。スイの食べている缶詰より高級品だ。
『あの、できれば私も焼き鳥がいいなーと。サバ缶とか』
「ダメ。塩分高すぎ」
『猫である身が恨めしいです』
そういいながら、少女は猫の体に戻り、肉球のついた手で、デスクトップパソコンの電源を入れた。
「どうかした?」
『知らないようなら説明しようかと。あの、すみません入力をお願いします』
「はいはい」
パソコンの前にスイが正座し、黒猫がちょこんと、見た目のわりにしっかりした太ももに座る。
『検索ワードは、『精神感染症』『学生向け』』
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