第1章

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『はい。ですが猫の身体ではエネルギーの供給が足りなくて。大分精神体が薄くなってしまいました。もう物には触れません』 「本体は?」 『空中散歩してたら病院に運ばれちゃったみたいでして。幸い、精神体が消える前に、猫さんの体にお邪魔できましたが。この体だと、三分くらいで精神体が消えちゃいますし、そもそもどの病院かもわからないしで。どうも一度ほかの生き物に取り憑くと、本体が気絶しても体に戻れないみたいでして、かれこれ三日ほどこの状態です』 「自宅はわかるんでしょ? 聞いてくればいいんじゃない?」 『猫で、ですか?』 「いや、僕が。友達のふりでもして」  がばっ、と猫が土下座する。 『お願いします! もうなりふり構ってられないんです!』 「それは任されたから、ほら、続きをお願い」  黒猫を抱きかかえ、膝の上へ戻す。 「まだタタリ憑きの説明が残ってるだろ?」 『は、はい! そうですね! 説明させてもらいます!』  黒猫は身を乗り出し、肉球でマウスを操作する。 『第三世代感染者、通称タタリ憑きは、ほかの感染者とは一線を画します。まず現れる精神体は、発症者の最も恐れているモノが現れます。あの釘女さんも、釘にトラウマを持っていたんだと思います』  スイは先日あった土師を想起した。  あの土師が第三世代感染者であり、甲冑が、彼の恐怖の象徴なのだろう。 『この精神体は、攻撃するための形なら攻撃に、防御するための形なら防御にという風に使えるそうですが、追いつめられると発症するという性質上、攻撃的になることが多いようです。加えて重要なのは、第三世代は精神体を肉体に戻すとき、その精神体の性質を、発症者の心にフィードバックすることなんです』 「フィードバック?」 『あ、帰還というか、還元というか、そんな意味です』 「中卒でもそのくらいわかるよ」 『失礼しました。とにかく、第三世代は生み出した精神体に影響を受けます。発症の条件からして、第三世代発症者が精神体を多用すれば、ろくなことにならないようで』 「なるほど。際立って剣呑だね」 『まあ大事件になる前に、大抵は餓死するそうですが』 「餓死?」 『末期になると食べることを忘れて活動するようになるそうで。睡眠はとらざるを得ないようですが、衰弱して倒れてしてしまうそうです。餓死は誇張表現ですが』 「ああ、そう。よかった――わけでもないか」
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