第1章

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『ともあれそんなわけですので、気を付けてください。うかつに精神体を出していると、変なのに見つかっちゃいますから。特に最近はですね、タタリ憑きを狙った連続殺人鬼とかいるみたいですから』 「むしろそっちの方が怖いな。わかった。気を付けるよ」  スイがスイッチに触れて、パソコンをスリープ状態にする。 「僕の周りは、大分平和だったみたいだね。多分、僕が気にしなかっただけだろうけど」  最後の焼き鳥をつまみ、口に放り込むと、ぼいっと缶をゴミ箱に投げ捨てる。 「ま、ひとまずは君の本体探しといこうか。えっと、そういえば名前……」 『あ、そうですね。自己紹介しないと』  ポンと宙に精神体を浮かび上がらせる、両手を前で合わせ、しっかりと頭を下げた。 『御門千夜といいます。どうぞよしなにお願いします』 「三好粋錬。スイでいいよ。よろしく」  かわそうとした手がすり抜けて、互いの手は宙を掻いた。  そうだったと、二人して苦笑し、黒猫は横向きに倒れてエビのように丸まり、スイは壁に大きくもたれかかった。 『今日は正直つかれちゃいました。幽霊ですし』 「幽霊とは違うと思うけど……まあ、同感」  二人はゆっくりそのまま、静かに意識を眠りに落とした――  と、思われたのだが。 「……ちょっと待った」  スイが黒猫の首の皮をつまんで持ち上げる。  だらーんきょとんとする黒猫千夜。 「君、臭う」 「にゃっ!」 「ダニもいるかもしれないし、ちょっと洗っておこう」 『いいいいいいや、あの、猫とはいえ私女の子でして!』 「大丈夫。事務所に居ついた猫の世話は僕がしてたから」 『そそそそそそういうことではなく――』 「事務所に捨てられてた女の子の面倒を見たこともある」 『何ですかそれ! なんなんですかそれ!』 『ひょわー』という声が漫画喫茶全体に響き渡ったが、幸いなことに、彼女の声は一般人には聞こえないのだった。 四章  駅前の雑踏を、二人組の男女が歩いている。  一人は白いシャツにジーンズの、さわやかな好青年だ。  もう一人はオレンジ色の暖かそうなコートを羽織った、小学校中学年程度の少女。片方の手で寒そうに体を抱えて、もう一方の腕を青年の腕に絡めている。 「いやぁ、いい陽気だね。こんな日は何かいいことがありそうで、年甲斐もなくワクワクしてしまうな。いや、年相応なのかな?」
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