0人が本棚に入れています
本棚に追加
『ともあれそんなわけですので、気を付けてください。うかつに精神体を出していると、変なのに見つかっちゃいますから。特に最近はですね、タタリ憑きを狙った連続殺人鬼とかいるみたいですから』
「むしろそっちの方が怖いな。わかった。気を付けるよ」
スイがスイッチに触れて、パソコンをスリープ状態にする。
「僕の周りは、大分平和だったみたいだね。多分、僕が気にしなかっただけだろうけど」
最後の焼き鳥をつまみ、口に放り込むと、ぼいっと缶をゴミ箱に投げ捨てる。
「ま、ひとまずは君の本体探しといこうか。えっと、そういえば名前……」
『あ、そうですね。自己紹介しないと』
ポンと宙に精神体を浮かび上がらせる、両手を前で合わせ、しっかりと頭を下げた。
『御門千夜といいます。どうぞよしなにお願いします』
「三好粋錬。スイでいいよ。よろしく」
かわそうとした手がすり抜けて、互いの手は宙を掻いた。
そうだったと、二人して苦笑し、黒猫は横向きに倒れてエビのように丸まり、スイは壁に大きくもたれかかった。
『今日は正直つかれちゃいました。幽霊ですし』
「幽霊とは違うと思うけど……まあ、同感」
二人はゆっくりそのまま、静かに意識を眠りに落とした――
と、思われたのだが。
「……ちょっと待った」
スイが黒猫の首の皮をつまんで持ち上げる。
だらーんきょとんとする黒猫千夜。
「君、臭う」
「にゃっ!」
「ダニもいるかもしれないし、ちょっと洗っておこう」
『いいいいいいや、あの、猫とはいえ私女の子でして!』
「大丈夫。事務所に居ついた猫の世話は僕がしてたから」
『そそそそそそういうことではなく――』
「事務所に捨てられてた女の子の面倒を見たこともある」
『何ですかそれ! なんなんですかそれ!』
『ひょわー』という声が漫画喫茶全体に響き渡ったが、幸いなことに、彼女の声は一般人には聞こえないのだった。
四章
駅前の雑踏を、二人組の男女が歩いている。
一人は白いシャツにジーンズの、さわやかな好青年だ。
もう一人はオレンジ色の暖かそうなコートを羽織った、小学校中学年程度の少女。片方の手で寒そうに体を抱えて、もう一方の腕を青年の腕に絡めている。
「いやぁ、いい陽気だね。こんな日は何かいいことがありそうで、年甲斐もなくワクワクしてしまうな。いや、年相応なのかな?」
最初のコメントを投稿しよう!