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青年が笑うと、少女はひときわ強く、青年の腕にしがみついた。
「おなか減った。おなか減ったよ。寒いよ。おかあさん。おかあさん。おかあさん」
「ああ、可哀そうに。じゃあ食料を探すとしようか。大丈夫。任せておくといい。同類ではないけれど、僕たちは仲間だからね」
青年が頭をなでると、少女は少しだけ、腕に込めた力を抜いた。
「まあせっかくだから、種も撒いておくとしようか。自給自足も大事だし」
言いながら青年は、足を止めずに歩き続ける。レストランにもコンビニにも立ち寄らず。
「本来の目的も大事だしね」
「初めまして。三好粋錬といいます。ここは御門千夜さんのお宅でしょうか?」
「ええ、そうですけど……」
怪訝そうな顔をする中年の女性に、スイはほっとした笑顔を見せる。
「よかった。僕は千夜さんのメール友達なんですが、最近、ぱたりとメールの返事が来なくなってしまって。近くに寄る用事があったので、様子を聞きに伺ったのですが、千夜さんはいらっしゃいませんか?」
「ああ、そうなの。あの子お世話になっております」
千夜の母である女性はつかれた笑みを浮かべ、スイに軽く頭を下げる。
「でもごめんなさい。今あの子入院してるのよ」
「そうなんですか? それで返事が来なかったんですね……あの、お見舞いとかできませんか?」
「それがねぇ。今HCUって病室にいて、家族でないと入れないのよ。だからちょっと――ああ、じゃあおばさんと行く? 私と一緒に行けば入れるわ。夕食の支度をしないといけないから、ちょっと待たせちゃうけど」
「いやぁ、初対面の人がいきなり行くものなんですので、また別の機会にします。千夜さんによろしく言っておいてください」
「そう? また来てね。少し返事は遅れるかもしれないけど」
「はいっ」
スイは頭を下げ、少し遅い足取りで、御門家の門前から歩み去っていく。千夜の母は、少しの間、手を振りながらスイを見送った。
するりと、道を歩くスイの襟元から黒猫が顔を出す。
『スイさんはあれですね。詐欺師の才能がありそうですよね』
「ただの社会人スキルだよ。あそこか」
やってきたのは、千夜の家から近い市民病院。近隣でHCUという病室があるのはここだけだった。いるならここだろう。
黒猫を服の中に押し込み、近くの花壇に腰かけ、スイは精神体になって、病院内のHCU病室に入り込み、寝ている千夜の姿を確認して戻る。
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