第1章

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 嬉しそうに、にやにや笑いながら言う荒賀を睨みつけながら、スイは義手のジョイントを外す。 「そっちも。親の権力を盾にやりたい放題か。でも、残念だけど――」  義手が地面すれすれを浮遊して、スイの陰から、荒賀の視界の外へと逃げる。 「こっちは変わったんだ」  義手が荒賀の足をつかみ、思い切り掬い上げた。  足元を掬われた荒賀がみっともなく倒れ、代わりにスイが立ち上がる。 「今度はやり返す。別に恨んではいないけど、死ぬのは二度で十分だ」 「なに調子にの――でっ?」  立ち上がろうとした荒賀の顔を義手が掴み、荒賀の言葉を押しとどめた。 「まったく勘弁してよ。付き合ってらんない――」  スイが頭をかいた直後、とんと後ろへ飛ぶと、スイの眼前を、精神体の刀が通り抜け、スイの髪の毛を数本切り落としていった。  同時に放たれたもう一振りの刀は、義手を貫き、荒賀の顔から引きはがした。  むせかえる荒賀を無視して、スイは義手に霊動力をかけなおし、自分の手元へ引き戻して、乱入者へ向き直った。 「貴様、何をしている」 「ああ、またアンタか」  眉間にしわを寄せ、怒気の籠る視線を向けてくる土師に、スイは対照的な、冷えきった視線を向け返す。  駐車スペースに置かれていたコンクリートブロックが二つ、浮き上がってスイの傍らに滞空した。 「まったく、誰も彼もどうかしてる。そんなに権力が大事かな。そんなの、トラックの衝突は防いでくれないのに」 「反省の色は無しか。救い難いな」 「はいはい。前と同じね」  土師が甲冑を出現させ、スイが塀に立てかけられていた、車の進行禁止用の、太い金属の柱を引き寄せる。  二人の対峙する横で、ひそかに荒賀も、懐の大型ナイフへと手を伸ばした。  三人が同時に沈黙し、二人と一体がわずかに身じろぎした、次の瞬間だった。  塀の際に座り込んだ荒賀の正面、スイの左手側の、病院の窓ガラスが砕け散り、鋭い二本角の魚が飛び出した。     五章  病院の窓を破壊して、鋭く前に突き出した二本角の、巨大な魚が現れる。  振り返るスイと土師の甲冑。だが魚の進行方向にいる荒賀は、ぽかんとスイを見るだけで反応はない。 「チッ」  忌々し気に舌打ちをして、スイが浮遊させていた二つのコンクリートブロックで、荒賀の体を横殴りにする。  一瞬前まで荒賀の顔のあった空間に、魚の角が突き刺さり、コンクリートの塀に穴をあける。
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