第1章

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『オオオオオオッッ!』  甲冑が刀を振り下ろすが、魚は身をよじって刃をかわすと、甲冑の頭へ向かって突き進み、甲冑の兜を串刺しにする。  兜に穴をあけられ、甲冑は土師の身体に戻る。  それを見ていたのか、魚は再び方向転換をし、今度は土師本体へと突き進む。 「くっ!」  土師が意識を取り戻した瞬間には、魚の角の先端は、一メートルとない距離にまで接近していた。 (間に合わない――死――)  土師が死を思った瞬間、迫りくる魚が、ふっと消えた。  倒れそうな体を支えるように、土師は一歩後退し、視線を巡らせスイの姿を探す。 (あの男は力を使ったまま移動できる。どこから攻撃されるかわからん)  などと警戒していると、割れた窓ガラスから、スイがひょいと飛び出してきた。 「本体は気絶させたから、もっとやりたいなら自分で起こしなよ。アンタは付き合いがよさそうだから」  足元のガラス片を霊動力でひとまとめにして、建物の隅に追いやりながらそれだけ言い、スイは正規の入り口から病院に入っていこうとする。 「おい! 待て!」  制止しようとした土師に、スイは心底あきれたという顔を向け、吐き捨てる。 「ここで優先順位を間違えるようなら、人としておしまいだよ」  土師の顔が、呆然としたままの荒賀に向けられ、同時に、スイの姿は病院前から消えていた。  病院内ではパニックが始まっていた。  スイが病院へ入ったのは、正面ではなく、裏手の緊急外来入り口からだ。正面に比べて遥かに人気は少ないが、それでも病院の奥から悲鳴は届いてくる。廊下を曲がり、正面ホールを視界に入れれば、それはもう酷いありさまだった。  流れる鮮血。飛び交う肉片と悲鳴と狂声。ホールから各科の診察場所へ続く廊下の内は、生者と死者が七対三。しかも三十人ほどの生者のうち、五人ほどがタタリ憑きのようで、異形の精神体が五つ、ホールで活動していた。 逃げ道である玄関の自動ドアはというと、おそらくタタリ憑きの精神体だろう。ガチガチに凍結しており、氷の上に四つほど血まみれの死体が積みあがっている。精神体の主は、自動ドアの正面で氷に包まれて笑っている若い男だろう。 若い男へ向かって、日焼けをして金のネックレスをした筋肉質な男が殴り掛かると、拳は氷によって阻まれ、氷に張り付いた。 「な、なんだこれ――」
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