第1章

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 スイが左手で右肩の当りをいじると、スイの右ひじから先がごとりと落ち、スイは左手で義手を拾うと、下の階へとそれを落とす。  落とされた義肢は一階の真ん中あたりの高さでぴたりと止まり、上にいるスイは無線機のスイッチを入れて、現場監督に連絡を入れる。 『三好か? どうした?』 「すみません。腕下ろしたんで、ラチェットハンドル渡してくれますか?」 『ああ、分かった。握らせたぞ』  現場監督の男性が義肢の手に工具を握らせると、義手が浮かび上がり、スイの元へと戻り、元通り肘にくっついて、カチンと音を立てた。  工具を手の内で弄びながら、指が動くことを確認する。 「便利なもんだな最近の義手は。不謹慎だが、うらやましくなる」 「親父さんと同じ言い方ですね。言ったでしょう。これは義肢の機能じゃなくて、僕の超能力だって」 「はいはい。作業に戻ってくれ。秋はすぐ日が落ちちまうぞ」 「うす」  作業に戻って、スイは作業終了時間まで勤勉に働いて、最後に日当を受け取って、同僚たちと共に帰路についた。  仕事帰りには、何人かの職員と一緒に銭湯に寄っていくことが多い。スイが暮らしているのは海辺の町だ。汗をかく仕事でもあるので、懐が寒くとも入浴は必須だ。 入浴を終えて、着替えを済ませ、スイが番台に料金を支払い、バナナコーヒー牛乳などという風変わりな飲み物の缶を呷っていると、現場監督をしている初老の男性がやってきて、スイの隣で缶ビールの缶を開けた。 「おう。お疲れ。ちょっといいか」 「おつかれさまです。どうぞ」 「うん。まあ、なんだ。そろそろ内側の作業も手伝ってみないかと思ってな」 「内装ですか?」 「いや、経理やらその辺の事務処理だ。お前さんは勤勉だが、昨今は中卒じゃ厳しいからな。資格の一つでも取っておけば、うちに何かあっても潰しがきくからな」 「危ないんですか? 会社」 「いやぁ、今のところ大丈夫だ。社長の腕がいいからな」  けらけら笑う監督に、スイは「え?」と漏らして顔を背けた。 「おい、なんだ今の、え、は?」 「いえ、別に」 「で、どうするんだ?」 「そうですね。やらせてもらえますか? 久しぶりに、勉強もしてみたいので」 「お……おお!」  監督の表情が、ぱっと明るくなる。 「そうかそうか! 叩き込んでやるから覚悟しとけよ!」  子供の用に笑顔でスイの肩に手を回し、銭湯を出ていこうとする監督。
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