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『恐るるに足らん!』
ハジが再び甲冑を出現させる。
同時に、スイも、次の手を、ポケットから取り出していた。
8センチほどの長いネジに、薄いシャフトが大量に貫かれ、ナットを蓋にして止められている。
スイが青い右手を翳すと、ナットの蓋が抜け、シャフトがこぼれだす。
「飛べ!」
シャフトに次々と青い光が灯り、連続して弾丸のように発射される。
無防備に突っ立っていたハジに数個のシャフトが突き刺さり、スーツの表面を削り取る。
『おのれ!』
甲冑がハジの前に立ちふさがる。
シャフトは甲冑にぶつかると、青い光を失い、鎧の表面を少し削って落ちてしまう。
スイのシャフトは瞬く間に数を減らすが、スイは落ちたシャフトに再び光をともし、手元に引き寄せ再利用する。
「再利用が効くんだ。弾切れはないよ。そっちは一度消さないと、傷は治らないだろ?」
『おの――れぇぇぇっ!』
撃ち抜かれながら、甲冑が刀を振り上げ、大きく力を溜めて、二本の刀を続けざまに別方向へ投擲した。
一等はスイの顔へ真っ直ぐ。スイは連射を止めないまま、軽く体を捻ってかわす。
遅れて投げられた刀は、スイの頭上にある道路標識のパイプを切断し、二つ連なった丸型の標識がスイの頭上へ落下する。
幸運だったのは、スイが工事現場勤務で、金属音の聞き分けに長けていたことだ。
金属の切断された音に気付いてスイは顔を上げ、落ちてくる標識に手を翳し、一瞬青い光をともして真横へ吹き飛ばした。
吹き飛ばされた看板は、森林側のフェンスに突き刺さり、貫通して大きな穴を空ける。フェンスの向こうにいた人影も、振り払われる虫のように看板から飛び退いた。
「ラッキー。道ができた」
シャフトの発射を再開しながら、スイはフェンスの穴へ向かって、後ろ歩きで走り出す。
『逃げるか!』
「うん。別にこっちは興味ないし」
言いながらフェンスに手をかけ、穴をくぐる。
『臆病者が! 逃がすな! 撃て!』
木の影から機銃を持った兵士が飛び出し、銃口をスイへ向ける。
「よっ」
兵士の一歩前に落ちていたボーリング玉大の石が跳ね飛び上がり、兵士のヘルメットに直撃してバイザーを粉々に砕き割った。
「構えたら全員同じ目だよ。これで」
道路標識が浮かび上がり、木の陰からのぞき込んでいた兵士が陰に戻る。
「賢くて好きだよ」
スイが走り出そうとした瞬間――
「逃がすかあああああっ!」
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