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「頭が一番ばかだね」
穴を押し広げて追ってきたハジを、道路標識がぶっ叩いた。
ハジが膝から崩れ落ちたところで、スイは全力で走り出した。
隊員の数名がハジと倒された隊員に駆け寄り、応急手当てを開始する。
同時に、隊員の一人が、ヘルメットのバイザーを開け、苦々しげに、トランシーバーへ言葉を贈る。
「報告します。作戦は失敗。負傷者二名。うち一人は、土師警部です」
二章
大部屋をパーテーションで区切っただけの個室で、二人の男が向かい合っていた。
一人は大仰な机につき、両肘をついて手を組む初老の男。
向かい合うのは、スイを襲撃した土師という男。鼻にガーゼが当てられ、今日は警察の制服を着こんでいる。対している男は警視。つまり上司であり、折れてしまいそうなほど背を伸ばしている。
「結論から言おう。人違いで間違いない。彼は三好粋練。普通――というには、いささか逆境を生きているようだが、普通の少年だ。近場の建設会社に勤めている。勤勉な、いい社員だったそうだよ」
「しかし彼も感染者で――」
「いや違う。戦闘中の会話を聞く限り、彼は第二世代や第三世代とは特徴が違う。天然ものだよ、彼は」
「申し訳ありません!」
「私に謝ったからと何になる! もう取り返しはつかん!」
忌々し気に、額を抑え、警視は背もたれに体重をかける。
「行動が早い。彼は君と交戦したその日のうちに退職願を出し、大家に挨拶をして家を出たそうだ」
「では捜索を――」
「そのような余裕はない。芦屋連勝と、感染源の追跡が先だ。彼への説明には、別の警察官を向かわせる。いいか、土師警部」
「はっ」
「お前の立場は、タタリ憑きという能力のみで得たものだ。それが不全となればどうなるか、わからないわけではあるまい。慎むような」
「はいっ」
坂の上には、幽霊屋敷があるらしい。
『何年か前に死んだお嬢様が、今でもピアノを弾き続けてるんだって』
公園で出会った少年はそう言った。
『だからあの辺の家、みんな引っ越しちゃったんだって』
と、そうも言っていた。
(ラッキー。今日の宿はタダでよさそうだ。お、あれかな?)
夕方。閑静な住宅街の坂を上り、目標の屋敷の横の路地裏に入り、目を閉じる。
青いスイの人型が体から抜け出ると、塀をすり抜け、幽霊屋敷の敷地内に入る。
(さすがに、人が住んでたら入れないし)
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