第1章

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 ビルの切れ目の、二階の踊り場から飛び降りた晴直が、道路を転がりながら着地し、女の前に立ちふさがる。 「いかねぇぜオイ」 「それはちょっとズルくない?」  苦笑いを浮かべながら、女は僅かに後退する。  対する晴直の表情に笑みはない。 「別に俺が二階に上がるのは禁止してなかったしな。俺の勝ちってことでいいよな?」 「まさか。オブジェに触れば私の勝ちなんだから」  女は身体を揺らして後退し、助走をつけて晴直へ突っ込んでいく。  スキットで走りながら、女は二つのERを同時発動する。  一つは自分の姿を隠すER。完全には見えなくならないが、一瞬姿を隠す程度なら十分だ。  そしてもう一つは、自分とまったく同じ姿をしたER。その分身は、晴直を挟んで、女とは反対側へ向って走る。  晴直の視線が分身へ引っ張られる。 (私の勝ちだ)  そう思った女が晴直からオブジェクトへ視線を移した瞬間、晴直の耳が、本物の女へと傾いた。 「捕まえた」  襟が晴直の手につかまれ、女の身体が急停止する。  小さくモーター音がして、スキットの底が地面に付いた。 「……運がいいのね」  悔しさをかみ殺し、女は俯き、手首に着けられたブレスレットを眺めて言う。 「身体なら見えなかったぞ。多少歪んで見えたが」 「え? じゃあ、どうやって?」  背を向けていた女が、赤い目元を拭って振り返り、晴直は顎で女の足元を差す。 「そのスキットってのは、使うと高い音が出るだろ。横を抜ければ流石に分かる」 「え、そんな音聞こえる?」 「聞こえる」 「それでか……」  女は一瞬俯いた後、大きく両手を上げる。 「あー、もう。はいはい。私の負け。アンタのことは諦める。けど警察に入ったりはしないでよ? ただでさえ厄介なのがいるんだから」 「いや、入るよ」 「あのね! そこは譲れない――」 「そっちのグループにだ」  詰め寄る女に晴直がさっと言いかえすと、女は「は?」と目を丸くする。 「不満か?」 「いや別に……なんで?」 「……はぁ」  大きく息を吐いた晴直が、女の頬をつまんで引き延ばす。 「いででででで」 「お前が! 人の迷惑も考えず行動する馬鹿だからだ! ばーかばーか!」 「んにゃにを~!」 「誰かが押さえないと迷惑だろ! いいな!」 「このっ!」  女が晴直の手を振りほどく。  傷む頬をさすりながら、女は「ふんっ」と鼻を鳴らす。
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