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「まあ、仲間になってくれるっていうなら、いいわ。負け犬として、多少の希望も聞いてあげる」
偉そうに、ニヤリと笑って言った瞬間、女の頭に晴直のげんこつが落とされた。
「!?!?!!」
「ほら、行くぞ」
涙目になる女の手首を引っ張り、晴直がビルへ向って歩き出す。
「え? どこ?」
「通行人に謝りに行く。法律はともかく道理は弁えろ」
「え! やだ!」
「やだじゃない。あんま抵抗すると警察に捕まるぞ。俺が」
「ぐぅ」
苦虫をかみつぶしたような表情で、女は抵抗を止め、手を引かれるがままに歩きだす。
そう言えばと、晴直が顔を半分、女へ向ける。
「お前、名前は?」
「華凜」
「晴直。よろしく」
女は息を吐き、苦笑しながら晴直を見上げた。
三章・MiceRoost
晴直が華凜に案内されたのは、ショッピングモールとは形状の違う、住居用のビル。マンションにしては規模が大きいが、機能としてはそう違わないだろう。
「エレベーターこっちだけど?」
「三階だろ? 階段でいいだろ」
階段に足を掛ける晴直と、奥のエレベーターへ向おうとする華凜は、数秒間見つめ合い、華凛は「不可解だ」という目をしながら、晴直の元へとやって来た。
「別にいいけど、私はスキット使うわよ?」
「ちったぁ鍛えろ。未来人は体力不足なんだろ?」
「こっちは現代人。アンタが過去の人間なんだから」
言い合いながら、二人は三階にまで上がり、廊下の端の部屋の前にやってくる。
「普通だな」
「そりゃ家としては普通だもの。野乃、アトリ、開けて」
インターホンに口を寄せて華凜がいうと、ドアの鍵が内側から開けられ、小柄で陽気な表情の少女が顔を見せる。
「お帰りー」
と、そういう声には聞き憶えがある。
「お前、俺をバカ呼ばわりしたヤツだな?」
「あ、パステッドの兄ちゃんじゃん。どうぞどうぞ」
「…………」
「?」
「おじゃまする」
あっけらかんいう少女に少し呆れながら、晴直は華凜に続いて部屋に入った。
部屋はワンルーム。流し台とベッドだけが家具として置かれている。
ベッドには全身黒ずくめの少年が不機嫌そうに座って晴直を睨みつけている。
他に人影はない。
「三人だけか?」
「そう。もちろん組織自体はもっと大きいけど、私達の部隊は三人だけ。晴直を入れても四人ね。ちなみに、そっちの騒がしいのが野乃。黒い方がアトリね」
「大犬野乃! よろしく兄ちゃん」
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