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「マジか! 案内してくれ! 頼む!」
野乃と華凜を引きずって詰め寄る晴直に、アトリはベッドの上で後ずさる。
「調べて自分で行けよ。何が悲しくてお前とデートなんか」
「男同士でデートもないだろ」
「誰が男だ! 俺は女だ!」
「えっ?」
晴直が振り返ると、うんうんと頷く野乃と華凜。
「そうか……」
「そうだよ。全く」
「ちょいと失礼」
晴直がアトリのシャツに手を入れ、胸板と表現したくなる平たい胸に手を当てる。
「ぎゃああああっ!」
アトリが晴直の顎を蹴りあげる。
「何すんだばか! セクハラばか!」
「いや、ちょっと確認を」
「なにがだ! ばか!」
「怪我。痛むんだろ?」
「ぐっ!」
押し黙るアトリ。
晴直は一つ溜息を吐いて立ち上がる。
「野乃、悪いけど付き合ってくれ。俺一人だと多分迷う」
「はいはーい、逃げられても困るし、しっかり見とくよ」
「惚れんなよ?」
「ないない。ないって」
パタン、と家の扉が閉まる。
僅かな沈黙の後、華凜がため息交じりに口を開く。
「怪我、ホントにしてるの?」
「……まあ、な」
「ちゃんと言いなさい。手当てもしないといけないし、作戦にも影響するんだから」
「ん……悪かった」
「どれ」
華凜がアトリのシャツに手を入れる。
「ぎゃあああああっ! 何すんだテメェ!」
アトリの叫びが部屋に響き、廊下にまで轟いた。
アジトから西の商店ブロックに、地上時代の食料を売るその店はあった。
内装は木目の壁紙。棚も木目のプラスチック。地底人には木材に見えるのかもしれないが、晴直の眼には雑な模造品だ。
しかし置かれている食器や食品は紛れもない本物だ。
が――
「たっけぇ……」
値札には醤油が一リットル三千円。米がキロ四千円。味噌が五百グラム二千五百円と、晴直の常識とはかけ離れた値段が書かれていた。
「やめとく?」
「いや、買う」
身体を捻って晴直の顔を覗き込む野乃に、ハッキリと断言する。
幸いにして金はある。銀行に預けていた金も、親族が残してくれた金も、口座にたんまりと残っていた。長年の利子か、人生の半分は生きていけそうな額があった。
「せっかく残してくれたんだ。必要なもんじゃなくて、買って嬉しいもんに使おう」
「その考え、僕も好きー」
にっ、と笑いあって、食材と食器をぽいぽいとカゴに入れる。
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