0人が本棚に入れています
本棚に追加
「お兄さん、パステッドかい? うちの常連にもう一人いるよ。今度会ってみるかい?」
「お、いいね。相手にも俺のこと話しといてよ。その辺で会えるかもしんねぇし」
「あいよ。ところで――」
三人の視線が、晴直の買いこんだ、大量の荷物へ移る。
米が五キロ、醤油と味噌、出汁の乾物少々に、なべ二つとフライパンが一つ。包丁が一つ。その他諸々大量だ。
「リュックサックを買ってきた。これに入れてくれ。鉄板も入ってるから、背中は大丈夫だ」
「も、持って帰る気かい?」
「当然」
荷物をリュックサックに入れてもらい、晴直は軽々とリュックを背負い、上機嫌で店員に背を向ける。
「いや、いい買い物したぜ」
「兄ちゃん、重くないのそれ?」
「余裕余裕」
野乃と笑いながら店を出ると、店に入ろうとした客とぶつかりそうになり、慌てて横に避けてすれ違った。
「失礼」
「いえ、こちらこそ」
二人がすれ違い、直後、同時に勢いよく振り返り、見覚えのある互いの顔を視界に入れた。
「ハル?」
「……霧、か?」
四章・ReUnion?
アジトに戻った夜、晴直は野乃に語ってくれた。
晴直にも、コールドスリープ前には友人と言うものがいた。
霧も晴直の友人の一人であり、おそらく最も付き合いの長い友人だ。
「なんか気が合ってよくつるんでたんだ。上品で頭が良いいけど男勝りでな、そのくせ変な所で泣き虫で。俺が自衛隊に入るって言ったら、半日延々と泣かれたよ。ま、あの時期の自衛隊は危険な職業だったからな」
「つまり、兄ちゃんの女?」
「さあな。どんな関係だったのか……口にしたことがないから」
記憶の中では長かった髪が、短く切りそろえられてはいたが、間違いなく幼馴染の霧であることを、晴直は相手の反応からも確信した。
「霧……お前、どうして?」
「えっと、自衛官になって、ハルと同じ理由で……コールドスリープ」
「そ、そうか」
二人とも、それきり黙りこくってしまう。
コールドスリープしていた晴直にとって、別れはつい昨日のこと。対する霧は、少なくとも自衛官になるだけの時間があったらしい。つまり感動の再会なわけだ。
二人とも互いの感情に温度差があることを理解しているから、どうしていいのか分からず沈黙が産まれていた。
「どうしたの兄ちゃん――」
「あああああああーーーっ!」
最初のコメントを投稿しよう!