第1章

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 唐突な叫び声に三人が振り向くと、そこに居たのは数時間前華凜達を追い、晴直を勧誘した女性警官だった。 (まずい――)  晴直が対応を考え出すよりも早く、警官が叫ぶ。 「霧さん! その子USEの一人です! その人渡さないで」  かちゃん、と晴直の左手と霧の右手に、手錠が掛かった。  目を見開く晴直が手元へ視線を降ろし、正面へ戻すと、霧がにこりと晴直に笑いかける。 「私、もうハルと離れるの嫌だから」 (……四百年かぁ)  幼馴染がヤンデレになるには十分な時間だよなぁ、としみじみ思う。  見上げた空は、酷く忌々しい青色をしていた。  少しの間を置いて、晴直は空を見上げたまま聞いた。 「……霧。警官になったんだな」 「うん」 「似合ってるよ。金が欲しくて自衛官になった俺より、よっぽど。お前は正義感が強かったから」 「そ、そう、かな?」 「ああ、だから一緒にはいられない。俺は地上に帰りたい」  霧は一瞬ひるんだ後、表情を鬼気迫るものへと変貌させる。  対する晴直は、凶暴そうに口の端を吊りあげて笑った。 「何を言っても手錠は掛かってる!」 「それは――どうかな!」  晴直が重心を前に傾け、爪先に力を入れて後方へ大きく飛びずさる。 「えっ?」  晴直の手首が、手錠もろとも腕からすっぽぬけた。  地面に落ちた手首から映像が剥がれ、中のゴム手袋が露わになる。 「ER!」 「名付けて、ER・びっくりハンド!」  野乃と共に後退し、晴直、野乃と、霧、警官との距離が開く。 「野乃、時間は稼いでやる。早くスキット着けろ」 「分かってる!」 「そっちができるなら、こっちも準備できる」  霧が腕を振り、何かのボタンを押すような動きをする。 (……この音は――)  その数秒後、晴直の耳に、スキットと同じ、機械の起動する高い音が触れた。 (音は複数。一番近いのは――)  ビルとビルを繋ぐ二階の渡り廊下へ目を向ける。  人気のない渡り廊下の手すりの上に、もそりと動く影があった。  蜘蛛だ。金属で作られた四十センチ大の蜘蛛が、二階の手すりにしがみ付いている。 「PMCのスティルスパイダー? なんであんなものが……」 「今じゃ警察のサポートよ。人材が少なくてね」 「どの道、俺にとっては敵か」  重心を落とし、じりじりと下がりながら、周囲を確認する。  蜘蛛型のロボット、スティルスパイダーは、周囲に合計五体。
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