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(転落防止用のネット? そりゃあるか!)
晴直が振り返れば、呻いていたはずの倒した男の姿がない。
(やられた!)
少女は囮。他に居た彼女達の仲間が、倒れた男を回収していったのだ。
晴直のこめかみに青筋が立つ。
晴直は二階までの高さと、そして道路側に置かれている配電盤のようなボックスの位置を確認し、ペットボトルをポケットに差す。
二階の床まで約五メートル。ボックスの高さは約一メートル半。
「うっひひひ。パステッドっても、頭は大したことない――へ?」
笑っていた少女の視線が、晴直の動きに引き寄せられる。
「俺はなぁ!」
晴直が走り出し、道路と歩道を仕切るポールに足をかけ配電盤のボックスに飛び移り、その勢いのままジャンプし、二階の足場に手をかけ懸垂で身体を持ち上げる。
想定外の行動に、仮面の少女が全身で驚きを表現する。
「うそぉ!」
「するのは好きだが、馬鹿にされるのは大嫌いなんだよ!」
手すりを蹴って晴直が空中の少女へ跳びかかる。
指先が服を掠めたが、少女はスケート靴を使って真上に跳び上がって晴直の手をすり抜ける。
晴直は少女と入れ替わるように光る網に引っ掛かる。
「相手できないよ!」
少女はそのまま、ぽんぽん空中を蹴るように上昇していく。
その少女へ、晴直から強めに声を投げかけられる。
「おい!」
「ん?」
声に引かれて下を向いた少女の額に、晴直の投げたペットボトルがぶつけられた。
「性格悪いな!」
少女は額を押さえながら四階の通路に消え、ペットボトルは晴直の手の中に落ちた。
晴直は鋭く舌打ちをし、ネットの上を這って二階の通路に入る。
晴直達の攻防を眺めていたヤジ馬達が、一歩引いて晴直から距離を取る。
「そこの兄さん。下の階にはどこから降りるんだ? 階段は? あっち? サンキュー」
男性に指差された方に走り、店舗と店舗の間に隠れるようにあった階段で、早足で一階に戻る。
「大丈夫ですかお姉さん!」
できる限り格好をつけて、倒れた警察官の女性の前に姿を見せる。
女性は未だに息が整わないようで、晴直の手を借り、配電盤を背に座ってようやく息を整える。
「これも」
持っていたペットボトルを手渡すと、狙い通り、婦警はつまみを捻り、根元を回して蓋を開けて見せてくれた。
なるほどこう開けるのかと婦警の手元を見ていると、婦警が不思議そうな顔で、晴直を見つめ返してきていた。
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