第1章

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「すみません、お姉さんが美人だったもんでつい!」  晴直は慌てて両手をあげて体を引くが、晴直が引いた分だけ、婦警は真顔のままぐいっと体を寄せてくる。 「な、なんですか?」 「ひょっとして、パステッドの方ですか?」 「パステッド?」 「知らないんですね! やっぱり!」  婦警が目を輝かせ、晴直の手を取り強く握りしめる。 「な、なに! なんですか! 俺なんかマズイことしました?」 「大丈夫です! 期待どおりです! 今ご説明します!」 「あの、まず手を離して――」 「後で話します! パステッドというのはですね、コールドスリープで眠っていた人を指す言葉なんですよ! コールドスリープが開発された直後には存在しない言葉ですよね!」  Pastは英語で過去の意、だったはずだ。彼の記憶では。 「なるほど。ところで手を」 「後で離します」  感心しながら、もう一度頼むが、にべもなく断られる。 「それでですねパステッドさん。もしよかったら、警察官になりませんか? 正義の味方、こんなにカッコイイ仕事はありませんよ?」 「いやー、俺前に生きてた時代は似たようなことしてたんで、今回は別の方針で行こうかなー、とか思ってるんで」 「そう、ですか……無理強いはダメですよね」  気を落としながら、婦警は晴直の手を開放する。  ほっと息を吐いて、手をぶらぶら振る晴直。 「お姉さん、もう大丈夫そうですね」 「はい。あ、これは失礼。お茶ありがとうございます。あの、お金なんですが、仕事用の端末では支払いができないので、アドレスコードを」 「いや良いですよ。色々教えて貰ったんで。それでは」  爽やかな笑顔を残し、晴直は婦警に見送られながら早足でその場を去っていく。 (アドレスなんて渡したら、勧誘続きそうだしな)  そんなことを思いながら、晴直はフラフラと歩いていった。  町をふらついた晴直は、暫くすると再び自販機で飲み物を買い、利用する者の少ない階段のある横道で一息つくことにした。  階段に腰を下ろし、キャップを開く。  晴直の時代からある有名な炭酸飲料は、四百年前と変わらない味がした。  息を吐いて暫く腰を落ち着けていると、カチカチと高く響く足音が聞こえ、やたらと硬質な靴をはいた誰かが、晴直の隣に腰をおろした。 「ハロー。お隣失礼」  茶髪の女が笑顔で挨拶をしてくる。 「……ハロー」
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