第1章

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 一応返事をし、その直後にハッとして、晴直は僅かに腰を浮かした。 「その声! あの覆面の女!」 「イエス! まあまあ座って座って。話があるの」 「話?」 「そう。話し」 「……はぁ。分かった。聞くよ」  笑顔を崩さない女に毒気をぬかれ、晴直は元いた場所に腰を降ろした。 「んで? 話って?」 「ええ。貴方に良い話を――」 「あれ? お前髪赤くなかった?」 「それは後で説明するから」 「さっきの靴面白そうだけど、どこで売ってる?」 「聞きなさい! いい、私は貴方に良い話を持ってきたの。お互いの利益になるとても有益な話よ」 「詐欺臭ぇ。お前絶対なんか隠して話すだろ」 「ちゃんと聞く! 文句は後!」 「お、おう」  女に気押され、つい了承する。  女は晴直の返事に満足したのか、一つ大仰に頷いて続きを語り出した。 「まず貴方、起きた時のチュートリ、ちゃんと聞いた?」 「いや」 「はぁ。いるのよね、聞かないやつ」  女は、やれやれと首を振った後、晴直に少しだけ気の毒そうな視線を向け、しかし次の瞬間、ぴっと晴直を指差し断言した。 「いい? ここはシェル。地上の汚染から避難するべくして作られた、地下居住施設なの」 「地下?」 「あ、地下って言うのは地面の下って意味で――」 「分かるわ!」 「おおっ、思ったより元気そうね。ショックで放心するかと思ってたのに」 「お陰さまで!」  叫んでやった後、晴直は額を手で押さえる。 (なるほど。外に出た時の違和感はそれか)  軽く息を吐くと、女が晴直の顔を覗き込み、にやりと笑う。 「続き、良いかしら?」 「ああ」 「肝心なのはここからなの。いい? 私の所属している組織は、今地上へ出るための情報を集めて――」 「帰れるのか?」  再び腰を浮かした晴直を、女は手で制して座らせる。 「ちゃんと話を聞く。可能性はあるって話よ。約二百五十年前。人類が汚染された地上から地下へ移住する時、汚染を除去する為のナノマシンを撒いた。政府の発表だと、汚染除去にはあと二百年はかかるとされている」 「どうせならその時代に起こしてほしかったよ」  言いながら、晴直は頭の中で年表を整理する。 「でもね、移住前の地上の情報だと、浄化は百五十年で終わるって話もあるの。むしろ四百五十年かかるって考察自体が少なかったみたい」 「そりゃ、想像より汚染がひどかったとか、そんな理由じゃないのか?」
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