第1章

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 機会を爪先に取りつけ、踵を合わせ、地面を踏みこむと、カチっと音がしてスキットとやらが女の足に装着される。 「遅いのか、足」 「あなたと比較すればね。私だけじゃないわ。人類全般。地下への移住で、生活がコンパクトで便利になってね、地底人は地上人より身体能力が低くなってるの。だからこっちも使わせてもらうわね」  女が右手を顔の前で振ると、白い模様のない仮面が女の顔に現れる。  髪を撫でれば赤く染まる。初遭遇した時の女の姿だ。 「ARか? でもグラスが……」 「強化現実、Extend Reality。フェアじゃないから、一応使うってことは言っとくわ。ま、仮面は付けないけど」  女が再び顔の前で手を振ると、それに合わせて仮面が消える。 「要は立体映像みたいなもんか?」 「自分で試してみなさい。いい。ルールはこう。私が駅前の変なオブジェクトに触れば私の勝ち。それまでに貴方が私に触れれば貴方の勝ち。私は二階以上には上がらない。待ち時間は三秒。オーケイ?」 「あと他人への迷惑は最小限な」 「オーライ。じゃ、始め!」  晴直が立ち上がるのも待たずに、女は階段から滑りだしていく。 「準備運動くらいさせろっての」  晴直は文句を言いつつ立ち上がり、人にぶつからないようゆっくり道へ出ると、左手の道へ向き直り、途端に一気に走りだす。  人通りは多くない。女の背中もハッキリと見えている。その速度は、晴直の想像よりずっと遅く見える。 (二十秒くらいで追いつけるか)  少しずつ距離を詰めていくと、唐突に女が、スキットで前方へ滑ったまま振り返り、晴直へと手をかざす。 「身をもって知りなさい! ERの恐ろしさ!」  翳した女の手から、腕より太い杭が発射される。 「んなっ!」  驚愕に顔をゆがめ、晴直は杭を避けるため大きく横へ跳ぶ。 「うごっ!」  道路標識に頭をぶつけ、涙を浮かべながら立ち上がって走りだす。 (避けなくていいのか。立体映像だから) 「くそっ!」  怒りを露わにした凶暴な表情で再び追いたてる。 「うっそ! リカバリ早いな!」  女が接近に気付くが、距離は次第に詰まっていく。 (あれが出力の限界か。となると、距離を詰めればまた) 「くらえっ」  女が再び杭を発射する。 (無理に無視するよりは――)  晴直はその杭をギリギリでかわし、速度を緩めないまま女との距離を詰めていく。 「なっ!」
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