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「動作認識だな! 同じ手は筒抜けだろ!」
「ご明察!」
女の持つERシステムは、女が決まった動作やポージングを行うと起動する。同じ動きからは、基本的に同じERしか起動しない。
「このっ!」
女が両手を合わせて地面に触れると、赤レンガの壁が地面から現れる。
「どうせ立体映像――ぷへぁっ」
多寡をくくって壁に突っ込んだ晴直が、想定外の感触に転んで道路を転がった。
見ると、晴直が突き抜けた立体映像は、そこを起点に崩れるように消えていく。
「ただの映像じゃないのか!」
擦った額を撫で擦りながら再び女へ向けて走る。
(触った箇所から崩れてった。どこかから投影してる映像じゃああはならない。つまり――)
「つまり空中になんか撒いて色をつける技術と見た! ナノマシン的な!」
「理解が早い! 足も速い! 立ち直りも早い!」
女が腕を振ると、今度は壁からレンガが現れる。
「足止めとしては優秀だ!」
晴直が映像を腕で払うと、払った箇所から映像は崩壊していく。
空いた隙間から前方を覗き込みながら、レンガのERを通り抜ける。
すると――
「……マジか」
ずらりと並ぶERの柵、檻、金網、遊んでほしそうに尻尾を振る犬などの障害物の群れ。
通行人は突然の出来事に困惑して足を止め、中には金網に挟まれ、可哀想なほどにうろたえている腰の曲がった老婆もいる。
「人に迷惑かけるなって行ったのに!」
ERをかき消しながら、晴直は老婆に近寄っていく。
「大丈夫だよお婆さん! すぐ消えるからね!」
「…………」
「お婆さん? 大丈夫? ねえ……」
「…………」
「…………」
凄まじく苦々しい表情で、晴直が老婆の肩に触れる。
透ける。
「これもERじゃねぇか!」
消えていく老婆を置いて走り出す。
(大分離された。置かれたERも多いな。この調子じゃ追いつけそうにない。だけど――)
「一言言ってやらなきゃ気がすまねぇ……!」
そう言って晴直は、真剣な表情で顔を上げた。
(追ってこないわね)
ゴールのオブジェクトが見え、女が少し速度を緩めて振り返る。
ERはもう仕掛けてはいない。誰かが触れると崩されてしまうERは、町中に長い間設置しておくのは難しい。
(切り札もあるし、勝ったかなこれは)
「そうは――」
突如頭上から降り注いだ声に、女が急ブレーキをかけて頭上を仰ぐ。
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