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「僕は桜が大好きなんだ! もにゅっとしてないところが好きなんだよ」
臆面も無く、何のためらいも無く、全身全霊でそう叫んだ俺の友人である加藤のことを考えると、今でも淡い微笑みを浮かべたくなってしまう。そんな俺は、自分に酔っているのだろうか。それを悲劇として受け止めてみて、やっぱり喜劇の間違いでしたって、たくさん泣いて。
加藤のぶたの人生は、加藤のぶたが終わらせる。彼はいつもそう言っていた。
「知ってるか坂本。僕の名前な、のぶたって言うんだぞ。これもう罰ゲームだよな!」
そうやって自分の名前の嫌悪をどこまでも明るく突っ撥ねようとしていた加藤。でもやっぱり、名前で呼ばれるのは苦手だったみたいだ。きっとそれは、今も変わらない。
モラトリアム期間を加藤のぶたと過ごしていた。あの数年があったからこそ僕は今、平凡に生きていく難しさを噛みしめている。噛みしめ過ぎて、血が出るほどに。
では、加藤はどうだろう。加藤は。加藤のぶたは。社会の一員にならなければ生きている理由すら存在しなくなってしまうような、曖昧な、世界の中で。彼は今も絶望と闘っているのだろうか。それとも。もう闘わない世界に行ってしまったのだったか。
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