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「はい」
リビングのソファでせんべいを貪りながらテレビを見ていると、背後から双霧(ふたぎり)にそう声をかけられた。
のそりと緩慢な動きで振り返ると、風呂上がりなのかバスタオルを被りながら、何かを俺に差し出している。
それが何かも分からないまま受け取ると、鼻先を甘ったるい匂いがくすぐった。
「チョコレートか」
どういう風の吹き回しだ?
内心首を傾げつつ、しかし丁度甘い物が欲しかったところなので、小綺麗な包装を適当に裂く。
口を開くが、そのチョコレートが妙な形をしていたので少しだけ躊躇ってしまった。
「……なんでハート型なんだ」
「なんでって、本当に分かんないの?」
呆れきった冷めた目をぶつけられてしまったので考えてみる。とはいえ、ハート、チョコレートとくれば該当する情報はそう多くはなかった。
そういえば今日は二月十三日だったか。
「バレンタイン」
「あったりー」
ひひ、と歯を見せて笑う双霧の前でチョコをかじる。どうも販売されているものではなく、手作りのようだったからだ。
後から礼と感想を言うのもなんだか気恥ずかしいし、今この場で言ってしまった方が誠実な気がする。
しかし、妹から貰うチョコというのは、毎年の事とはいえ複雑だ……嬉しさと虚しさが交わっているような。
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