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「人生で一番古い記憶は何かお前は覚えているか」 私の目の前に制服を着た女の子が仁王立ちで立っていた。小高い丘の上、開けた場所の真ん中に一本大きなソメイヨシノが悠然と立っている。時間は月が空高く上る時間。星が桜の背景に広がっていて幻想的な景色を作り出している 「覚えていませんね。お嬢様」 地面に座りながら桜を眺めながら答えた。スーツが皺になるかもしれないと思うと少し憂鬱な気持ちになった。 「二人きりの時は名前で呼べと言っただろう。そして敬語をやめろ。私は敬語が好きじゃないんだ」 私と鶴巻沙紀の関係はビジネス上では雇用主と社員だ。私は鶴巻家に雇われている秘書であり、沙紀は私を雇っている鶴巻家の当主だ。 「それはお願いですか。命令ですか」 「命令で。お願いだ」 「わかったよ。沙紀。敬語嫌いは相変わらずか。立場的に大変だろう」 鶴巻家は数々の業界に影響力を持っているいわゆる財閥だ。一度は倒産直前にまで追い込まれた時期もあった。しかし、それは沙紀が当主として企業のトップに立った時から覆された。 それほどの商才と才能を彼女は持っていた。 「そもそも尊敬語とはなんだ? 相手を敬うために使う言葉だろう」 「その通りだが。何が不満なのか私にはわからない」 「敬うということは相手を自分より格上に置くと言う事だ。相手を特別扱いすると言う事だ」 「尊敬して礼節を持って対応する。いいことだと思うが」 「悪くはない。実際私はグループの人間に尊敬されているからな」 堂々と言い切るところが沙紀らしいと思う。そして、それは紛うことなき真実だ。尊敬されるうえに慕われている。商才があってコミュニケーション力が高く有能で可愛いとなれば好かれないわけがなかった。 「しかし、特別扱いするということはそれは相手を孤独にするということと同義だ。だから私は尊敬されることが好きじゃない。対等に扱ってもらえないということだからな」
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