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沙紀は昔からこういう人間ではなかった。子供のころは引っ込み思案で主張をしない子供だった。いつも厳しい両親におびえて生きていた。 それがあるきっかけで彼女は変わった。変わらざるを得なかった。 沙紀の両親はとても優秀な人間で残酷な人間だった。人の気持ちがわからない人たちだった。というよりも自分たち以外を人とすら思っていなかった。あの二人はおそらく結婚した相手すら人と思っていなかっただろう。 ただ、世界のルールがそうなっていたから。結婚し、繁殖するというルールになっていたからそれに従ったに過ぎない。彼らにとって人生とはゲームだった。世界とはゲームボードだった。 ゲームとはルールを守ってこそ面白いのだ。規制があって初めて彼らは生きることに意味を見いだせた。 だから、彼らには理解できなかっただろう。どうしてこんなもの。沙紀がこんなできそこないが自分たちから生産されたのか理解できなかった。 特に、母親はその傾向が顕著だった。彼らは他人に無関心だった。だから自分以外が無能でも特別気にすることはなかった。自分が優秀であればいいのだから。 ただ、沙紀は他人ではなかった。自分自身ではなかったがそれは確かに自分たちが生産したものだった。それが不良品。そう考えた時、彼らの中に生まれたのは虚無感と憎悪だった。 彼らが沙紀を虐待し始めるまでに時間はかからなかった。 沙紀を監禁して、死なない程度に虐待を続けていた。それに気づける者はいなかったし、気がついても注意できる人間はいなかった。 私もそんな人間の一人だった。沙紀の虐待に気が付いた時には彼女はすでに壊れていたし、それに気が付きながらも両親を止めることはできなかった。 だから、逃げ出すことにした。両親を注意することはできなくても両親から逃げることはできると思っていた。 様々な計画を練って沙紀を逃がそうと計画したその日。 沙紀は両親を殺した。
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