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「ああ。確かに沙紀の人生は劇的だよ」 私は桜に背を向けて仁王立ちする沙紀に向かっていった。背後にあるソメイヨシノ。この美しくこの国に群生する桜は実は作られた桜だ。 自分一人では種を残すことができず繁殖できない。それでもソメイヨシノは美しい。凛と立つ沙紀と同じように。 そして、そのソメイヨシノの下には沙紀の両親が埋まっている。おそらく沙紀は覚えていないだろう。当時の記憶はほとんど残っていないと本人は言っていた。 桜の樹の下には本当に屍体が埋まっているのだ。 「人生で心が動かされたことは2度あると言ったが。一度はこの桜を見た時。二度目は。お前に抱きしめられた時だ。お前は覚えているか?」 沙紀がにやにやとした顔で私を見つめる。私は背後の桜と見比べても沙紀は美しいなと思いながら答えた。 「覚えていない」
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