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「今日は何勝?」
手をのばしたら当たり前のように、ストローがセットされたペットボトルが渡される。
ありがとうと礼をいって、一口飲んだ。
眠っている間に喉が渇いていたらしい。
なんだかすごく旨く感じて、続けてごくごくと飲む。
「今朝から、松葉杖になって」
オレの様子を見ながら、佐藤が口を開いた。
「ああ、そうみたいだな。おめでとう」
「いつもみたいにしてたら、安定悪いって怒られたから、勝負は流れちゃった」
「じゃあ、もう、いいんじゃねえの?」
「でもさあ、最近やっと勝率上がってきてたのに」
「それ呆れられてると思う」
「俺の気持ちが認知され始めたとこだったんですよ?」
しれっとそういうバカな後輩に、ため息が出た。
なにが『俺の気持ち』だ。
オレが入院したのはこいつのリハビリが始まったころで、できるだけ動きたいからと歩行器でわざわざ通ってきていた。
それも、できるだけ時間をかけるとかいいだして、じゃんけん勝負をしながら。
そのじゃんけんだって、「チョコレートだからね!」という理由でチョキしか出さないという、勝負にならない勝負。
何か願掛けしているらしいっていうのは、先輩から聞いたけど、こいつの口からは出てこない。
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