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けどそれは、オレが揺らいでいるから安心させるための芝居なのか、それともホントのことだからなのか。
そんなことすら疑ってしまいたくなる。
廊下の向こうの方で、にぎやかな声がした。
場違いな程に明るいじゃんけんをせがむ声。
「お、きたな」
先輩が笑う。
「チヨ」
「なに」
「不安にならなくていい。ちゃんと治るし、退院もできる」
「うん」
「入院中はキスまでな」
「は?!」
なんてことないことのように言われて、驚いた。
頭を上げようとしてぐらんぐらんと目が回って、氷枕の上にぽすんと頭が後戻りする。
そんなオレを見て楽しそうに笑うから、力が抜けた。
「先輩」
「ん?」
どうせ今更だから、と、続きを口にする。
「そんな状態で、巻き込んでいいと思う?」
「入院がいつまでかわからなくて、その間はキス止まりだと浮気されるか?」
あんたじゃあるまいし。
と、ちょっとだけ思ったけど、言わなかった。
っていうか、ぜんぜんそんなとこまでいってないし。
もっと手前のところ。
呆れるくらいに、どうしようもないところで立ち止まっちゃってるんだっていったら、この人はどんな顔をするんだろう。
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