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「じゃ、点滴終わったらナースコールして」
「ん」
先輩の姿がカーテンをすり抜けてドアの方に向かう。
去っていく背中に手を伸ばしたいと思ったのは、もう遠い過去の話。
ぼんやりと見送ってそのまま目を閉じる。
瞼が熱い。
ぷくころん、と耳の下で、氷が転がる音がした。
「……が」
「ちょっと、はりきりすぎて……」
「え……じょうぶ……」
会話をしている声がする。
かつて大好きだった人の声と、今心惹かれている人の声。
何を話しているのか気になったけれど、耳を澄ませているうちに意識が溶ける。
ざわりとした雑音と氷枕の氷の音と、自分の鼓動が大きく聞こえ始める。
まだ、寝入りたくはないのに。
こつ、しゅ。
こつん、しゅ。
こつ、しゅ。
聞き覚えのない音が部屋の中に入ってくる。
入院していて物音に敏感になった。
目を閉じてうつらうつらと過ごす時間が長いからかな。
それとも、カーテンで仕切られているとはいえ、他人と同じ部屋の中で過ごすからか。
看護師さんの足音や運んでくる医療器具を乗せたワゴンの音。
点滴のスタンド。
ストレッチャーの音。
食事が運ばれてくる音は、食器を回収する時とは、ワゴンの音が違う。
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