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見舞いにくる人たちも、よく来る人は足音でわかる。
オレのところに来るのは、歩行器を使った音。
そのはずなのに、今日は違う音が聞こえる。
「チョコ先輩……熱あるって?」
先輩があけていったすき間から、聞きたかった声がした。
オレのことをあだ名で呼ぶ奴は限られてて、ほとんどの奴らは先輩が呼んでいたように『チヨ』と呼ぶ。
けどその中でも、ほんの数人。
高校時代の後輩たちだけ、オレのことを『チョコ』と呼ぶのだ。
千代田 洸、を聞き間違えたのだという一人が言い出して、なぜか定着してしまったあだ名。
「寝てんのか……んとに、何やってんだよ、あんた……」
さっき耳にした聞き覚えのない音がして、ベッドの横の椅子が動かされた。
それから点滴のために布団の外に出されていた手が握られる。
優しく指を絡められて、それから。
「あーあ、すっかり冷えちゃってんじゃん」
ゆっくりと指の一本ずつをマッサージされて、気持ちよくなった。
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