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優しい桜の木の下で
窓から降り注ぐ眩しい日の光が、白い廊下に射し込んでキラキラしている。香太は逸る気持ちを抑えながら、けれど駆ける足は止めることなく目的の場所を目指す。
廊下の突き当たり。
一番奥にある白い扉が見えてきた。香太は胸に抱えていたものにもう一度ぎゅっと力を込めて、その待っていてくれた扉へと手をかける。
「おかあさん!」
部屋に入ると同時に、香太は嬉しさのあまり大きな声を出す。すぐ視界に飛び込んで来たのは、窓際に設置された白いベッド。その上に起き上がっていた女性は、香太の足音に既に気付いていたのか、こちらに顔を向けて微笑んでいた。
「あら、香太。また来てくれたの?」
「うん。これ、おかあさんに渡そうと思って」
そう言って香太が差し出したのは、細長く丸めた一枚の画用紙だった。
「まあ、すごく、上手ね……」
女性は丁寧にその画用紙を開く。そこに描かれたものに目を留めると、少し眉尻を下げて、優しげな笑みを一層深くする。
「これ、おかあさんに、あげるね」
画用紙に描かれていたのは、クレヨンで着色された太陽みたいな眩しくて柔らかい笑顔だった。ふわふわとした短めの茶色の髪と、一番の特徴である口元のホクロ。それを子供独特の感性とタッチで、一枚の紙の上に鮮やかに描き出している。絵の横には大きく『おかあさん』と、形は悪いが力強い線で書かれていた。
「こんな素敵なものを……。ありがとう、香太」
「うん!」
勢い良く頷いた香太の頭を、細く整った手のひらが撫でる。少し冷たい温度がするりと頬に下りてきて、香太はそっと自分の小さな手をその上に重ねた。
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