0人が本棚に入れています
本棚に追加
涙をためた目で俺を見つめて来る。俺は事態が呑み込めないまま立ち上がった。とにかく何かしなくちゃいけないと思ったんだ。彼女はぷいと顔をそむけて小声でつぶやいた。
「やっぱりあれを食べさせて……」
その後の言葉は聞き取れなかった。うつむいたまま走り去って行く彼女を見送る。
ひとり残された俺は、クラス中が俺を見つめているのに気が付いた。男子はやっかみの目で、女子は女の娘を泣かせたという非難の目で俺を睨んでいる。俺は表情と身振りで精いっぱい『ぼくは悪いことはしていない』とアピールしたが、まったく通じなかった。
仕方がない。俺は、自分の席に戻って机に突っ伏している四條さんのところへ歩いて行った。できるだけ優しい声で話しかける。
「ええと、俺が悪かった……んだよな。謝るよ」
「本当?」
四條さんが顔を上げる。身体の下に開いた革装の本と二つのチョコの袋が見えた。
「どうすればいいのかな?」
「じゃあ」
彼女は二つの袋の中から、躊躇なく一つを取り上げた。
「これを食べて」
「うん」
封を開けてチョコレートを取り出す。四條さんが見つめる中、それを口に入れた。噛みしめる一瞬、机の上の本が目に入った。見たことのない文字で書かれていて、紋章のような文様が描かれている。
口の中に甘みと苦み、そして奇妙な香りが広がる。足が床にぐにゃりと沈んだ。そのまま俺は四條さんの瞳の中に?み込まれて行った。
最初のコメントを投稿しよう!