桜とスニーカー

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「法律に抵触するご相談もお受けしますが、こちらまでご足労願うことになります。よろしいでしょうか」  儂はかまいませんと答えた。今から伺いたいと言うと、お待ちしております、すぐに承諾されてしまった。所在地への細かいアクセスを聞いて、ケータイを切った。  急いで仕度をすませた。  靴は下駄ではなく、乗用車運転用のドライブシューズだ。車の運転中はスニーカーを装着しなくてもよいことになっている。例外規定もいくつか盛られてはいるが、免責項目も多いから注意しないと、検挙されてしまうのだ。  アルパカ探偵事務所は、高校の校舎の中にあった。校内テナントとしての営業許可がおりているらしい。不要になった教室をリフォームして再利用しているとのこと。  階段を昇っていくとアルパカ探偵事務所の看板が見えた。  看板のそばで白いアルパカが餌桶のはっぱを食べている。アルパカの腹の下では、黒と白のまだら模様の猫が昼寝をしていた。  2匹の動物を横目に、教室、いや、事務所のドアをノックした。 「どうぞ、おはいり下さい」  先程の電話と同じ女性の声がした。  中に入ると、若い男女が儂を迎えた。最初に女の方に目が向いた。  年齢は25くらい。背がすらり高く、腰までのストレートの髪。黒いセーターに脚の曲線のシルエットが浮かびあがるダメージジーンズ。目は大きく魅せる化粧で、理知的な印象を与えている。  男は30前後か。男も頭は切れそうだが、こちらの容姿はどうでもいい。 「どうぞ、おかけ下さい」  男が言った。 「責任者の零門です。こちらは助手のアヤメです」  男は名刺を出した。女の子は軽く会釈をした。  儂はソファに腰を下ろした。  部屋は殺風景だった。灰色のコンクリートがむきだしになった壁。部屋のはしにでかい机があって、その上にはパソコンがのっている。大きな窓の向こうにプラタナスの木が見えた。 「アルパカと猫の散歩に行ってきまーす!」  気を利かせたのか、助手は席をはずした。  単刀直入に、儂は話し始めた。  絶対にスニーカーなんぞ履きたくないと、何回も繰り返した。私立探偵は、儂の依頼内容に意見をはさむ事もなく、黙って聞いていた。 「要は、そのパトロール隊員があなたに干渉しなくなればいいのですね。ついでに、願わくば違反記録を抹消して欲しいと」  
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