桜とスニーカー

5/12
5人が本棚に入れています
本棚に追加
/12ページ
「ああ」 「わかりました。お急ぎですね。手を打ちましょう」  零門は立ち上がった。 「契約されますか」 「もちろんだとも。しかし本当に大丈夫なのか」 「厄介な仕事ですが、勝算のない仕事は引き受けないので」  零門は笑った。  儂は契約書にサインをして、所定の手付金を支払った。  三日後に、儂のアパートへ報告書を送付するという。  たった三日で?と聞き返すと、失敗したら料金を倍にして返金するという。なんとも、頼もしいお言葉だが、今となっては信用するしかなかった。          3  三日後。  大判の書留便が届いた。差出人はアルパカ写真館。  守秘義務とやらで、探偵事務所とは記されていない。  逸る気持ちを抑えて、封を切った。  A4サイズの紙が2枚。  報告書  調査対象者 スニーカーパトロール隊員 2名  対象者氏名 丸山 冬二   27歳 趣味 眼鏡        北川 朔太郎  29歳 趣味 チョコレート  おもな巡回地区  ドングリ公園、ドングリ川沿いの遊歩道  2名とも袖の下を好む。記録消去の実績あり。金銭の困窮なし。  趣味の眼鏡とチョコレートに着目されたし。 「奇妙な店」という名前の店に連絡を。   以上  2枚目の紙には、「奇妙な店」の住所と電話番号が印されていた。  それだけだった。  どういう事だ?  あのペテン師め!儂にどうしろというのだ?  儂は冷蔵庫から缶ビールを取り出し、プルタブを抜いた。半分ほど飲み干すと頭がすっきりしてきた。 「奇妙な店」へ行けということなのか。  店の住所はかなり遠かった。クルマで高速を飛ばしても、四時間はかかりそうだ。儂は天井を見上げ、ビールを啜り、溜息をもらした。  ケータイで「奇妙な店」の電話番号を押す。   「もしもし。儂は、アルパカ探偵からそちらの店を紹介された、山田という者ですが・・・」 「はいはい、山田さんですね。レイモン様からお話を聞いております」  若そうな男の声がした。 「山田さんの気に入る品物を用意いたしました」 「ほう。どんなモノかね、それは」 「電話では言えません。盗聴されているかもしれないので」
/12ページ

最初のコメントを投稿しよう!