桜とスニーカー

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「いいえ、ふざけてなどおりません。ぜひ、あのふたりにお試しください」 「チョコレートとフレーム、合わせて幾らだ?」 「いいえ、お代はまだいりません。結果に合わせて、頂戴いたします。トリセツを同封しておきますので、指示に従ってください」  学生服の少年はにっこりと嗤った。  なんだか背筋がぞわっとするような嗤い方だった。  儂が箱に詰めてもらいたいと頼むと、また不気味に嗤った。 「はい、よろこんで」  少年は店の奥から段ボール箱をふたつ持ってくると、手際よく梱包を始めた。  梱包が終わった段ボール箱をさっさと車に積み込んだ。  帰路を急いだ。  家に戻ると、さっそく梱包を解いた。  チョコレートと眼鏡フレームの箱。蓋をあけると白い紙きれがはいっていた。  金曜日の早朝、ドングリ橋の粗大ゴミ捨て場へ。  その際、チョコレートと眼鏡の段ボール箱を持参。  捨てて下さい。  以上。  指示書みたいだが、ゴミ捨て場に捨てろと書いてある。  意味がわからぬ。よくわからぬが、指示には従うことにした。         5  金曜日当日、早朝。  儂は4時半に起きて、段ボールを抱えた。指定先のドングリ橋は家からわずかの距離だった。  春とはいえ、この時期の朝はまだ肌寒い。  うんせ、うんせ。  どっこいっしょ、と。  わずかの距離だが、2箱の段ボールは重かった。ようやくの思いで、段ボールをゴミステーションに置いた。 「あー。山田さん!お早うございます!」  背後で元気な声がした。  どきっとして、振り向くと、スニーカーパトロール隊員が二人いた。しかし、制服姿ではなく、ジョギングスタイルだった。 「何してるんですか。不法投棄ですか」 「あ、スニーカーを履いてませんね!」  口ぐちに浴びせてきた。 「でも、私たちは勤務時間外なので、違反切符は切れません」 「ちょいと、何を捨てようしてるんですか」  と、うるさいこと、このうえない。  儂は言った。 「不要になった眼鏡フレームと食べきれないチョコレートだよ。あんたたち、持って行くかね?」 「おお、眼鏡フレーム!なんと!」 「おお、チョコレート!なんと!」  二人の隊員は段ボール箱を覗きこみ、感嘆の悲鳴を上げた。 「ぜひ、譲って下さい!」 「ぜひ、譲って下さい!」 「よし、譲ろう」
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