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気前よく、段ボール箱をひとつずつ渡してやった。
眼鏡フレームマニアの丸山冬ニ隊員が言った。
「私の趣味はフレーム集めです。ですが、こんなので、スニーカー罰金を踏み倒せませんよ」
続いて、チョコレートマニアの北川朔太郎隊員が言った。
「私の趣味はチョコレートを食べることです。ですが、こんなので、スニーカー違反を見逃したりしませんよ」
情報によれば、スニーカーパトロール隊員は、袖の下つまりワイロを受け取るということだったが、これでは話が違う。
段ボールをいまさら返せとも言えないし、返されてもそんなガラクタを仕舞う場所などない。
くそう!
地団駄を踏んでいるうちに、彼らは、ほいさほいさと運んで行ってしまった。
まあ、しかし。効果はあるかもしれん。
儂は少しだけ期待をしながら、家に帰った。
6
日曜日。
きょうは花見の日。
早朝から、儂は厨房で宴会用の料理を作りまくった。
フライヤーは唐揚でぼくぼくと油煙を上げ、荒磯はやきとりの香ばしい匂いをまき散らし、鍋のまわりは野菜の炊き合わせの湯気で白くなり、炊飯釜はピーピー鳴っている。
出来上がった料理を手際よく、重箱に盛りつけていく。
一の重、ニの重、三の重。
あとは酒だ、ビールだ、ジュースだ、発泡酒。
その頃になって、若い衆たちが「おはようございます」と出勤してきた。
ばっきゃろー!(ばかやろー)今、何時だあ! おせえぞ!
儂は怒鳴り飛ばす。
すんません、大将。あと、食う方はおれらがやるんで。
弟子たちが切り返す。
完成した重箱や酒類を外へ運びだしていく。
会場のドングリ山公園までわずかな距離である。
桜は満開。
公園は桃色の花びらに埋め尽くされている。
宴会が始まってしばらくすると、スニーカーパトロールの制服姿が見えた。
儂は相変わらず下駄ばきだ。
あいつら、儂を見咎めるか、それともスルーするか。
賑わう花見客たちの陰に見え隠れするスニーカーパトロールの制服。二人だと思っていたら一人だけだった。
眼鏡フレームコレクターの丸山冬ニだ。
丸山隊員は、儂の存在に気がついたようだ。
「こんにちわ。見回り御苦労さまです」
儂はわざとらしい挨拶をしてやった。
「どうも。いい花見日和ですね」
「きょうは連れの隊員はいないのですか」
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