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「裸の王様」という童話をご存知だろうか。王様が仕立て屋に騙されて、「バカには見えない服」を買わされる。そんな在りもしない服を、周囲も含めて見えている振りをする、というとても滑稽なお話だ。
目に見えないもの、つまりは実在しないもの。そんなものを「特別なもの」として、法外な値段を売りつけるのが、この店「裸の王様」である。
「これが、かの高名なノイマンも愛でたと言われる、量子の造花でございます」
ガラスケースを堂々と客の前へと置く。端から見れば、ケースの中には何も入っていない。否、事実中身など入っていないのだ。
「これは彼の人生の中で唯一、計算ではなく偶然出来た産物だと言われております。ほら、ここの辺りなど少し歪んでいるでしょう。彼にも直すすべがわからなかったのです。故に、この世に二つとない代物となっております」
客の男はどこかの社長だかで金持ちだと言っていたが、さほど興味もないので忘れてしまった。ふくよかな体型で、いかにもな雰囲気。どこか傲慢そうな印象を受ける顔立ちをしていた。
「んん? 何も入っていないじゃないか」
その客がガラスケースを凝視した。当たり前だが、何も入っていないのでまったくその通りである。見えるとすれば、ガラスに映った自分の顔くらいなものだ。
それを聞いた店主は、胡散臭い笑顔をより一層輝かせた。
「流石にお目が高い!」
わざとらしく両手を叩くと、何も入っていないガラスケースを横にどける。
「失礼ながら、先ほどのケースには仰るとおり何も入っていないものでした。しかし、」
カウンターの下から、再び何も入っていないガラスケースを取り出すと、客の前に置く。
やはり先ほどと何も変わらず空のケースを見て、客も胡散臭そうに目を細めた。
「実はこちらの量子の造花、一部の選ばれた人間にしか見えないといわれております。それは世界人口の1%にも満たないと言われておりまして、まさしく選ばれた人間のみが見える造花なのでございます」
と言ったが、何も入っていないようにしか見えない。客の男はケースの中を凝視していたが、見えていない様子だった。
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