裸の王様

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「試したようで申し訳ありません。しかしながら、見えない方にお見せしてもしようがないので、見栄を張るような人間にはお出ししないことにしているのです。はぁ、何度見ても美しい。思わず溜息がこぼれてしまいます。天才が愛した、天才にしか見えぬこの美しさ。私も見える側の人間でよかった」  恍惚の表情を浮かべて、店主はガラスケースを見つめていた。それを見てか、客の男もケースの中に何かが入っているかのような目つきになる。 「ほほう。これは確かに美しい。  客の男は確かにそういった。おそらく見えてはいないものを、まるで見えているかのように振舞って、美しいと言ったのだ。 「やはりお見えになりますか。私程度の人間で見えるのですから、ご高名なお客様なら確実に見えると思っていました。そしてお目に適う一品であるとも、確信しておりました」  そういわれた男も満更ではない様子で、ケースの中を見ていた。端から見ている分には空のケースを眺めているだけなので、滑稽な様子に見えた。裸の王様がバカには見えない服を着て歩く様子とは、こんな感じなのだろうか。 「ところでこちらの商品、二人ほど目をつけている方がおりまして。一人は来月には購入したいと仰っております。しかし、その前に購入していただけるというのであれば・・・」 「ふむ。これほどの一品だ。ここの店には多種多様なものが揃っているが、これほどのものは他にない」  男はちらりと店の商品を見た。確かに美しい美術品の数々だった。黄金で作られた鎧、髑髏を象った水晶。どこかで見たような骨董品の数々。だが、今回紹介された商品は、話にすら聞いたことのないの造花だというのだ。  この店には何度か足を運んだことがあり、商品を購入したこともある。信用に足る店であるという認識をした矢先に出されたのが、見えない造花だった。 「もし購入をご検討していただけるなら、何度か足を運んでいらっしゃっていただいているお客様ですので、心ばかりですがお値段を下げさせてもらおうかと」  店主が値札をカウンターの上に出すと、そこから少しばかり数字を引いた。客の男はまじまじとそれを見ると、目を見開いたのが遠めに見てもわかった。おそらく書いてある値段がありえないほどの金額で、購入を即決できるレベルではないのだろう。 「こ、これほどとは・・・」 「世界で唯一、それも作り方もわからない代物ですので」
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