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胡散臭そうな笑顔をして出てきた店主が、ぺこりと頭を下げる。そして女子高生の手を引くと、「こちらへどうぞ」とカウンター席へと座らせた。
「この季節、貴女のようなお嬢さんがくる、ということは・・・バレンタインに関連した商品でしょうか」
女子高生は、顔を赤らめうつむいた。どうやら当たりのようだ。しかし、ここには高級なチョコも、材料になりそうな食材もおいてはいない。どうしてここにきたのか、僕は検討もつかなかった。
「噂を聞いてこの店にきたということは、惚れ薬を買いにきた、ということでよろしいでしょうか」
「・・・はい」
話を聞くと、ひとつ上の先輩にチョコレートを渡して告白したいが、その先輩は学校でもかなりの人気者で、どうにかして告白を成功させたい。そこでこの店に惚れ薬が売っている、という噂を耳にして買いにきた、ということのようだ。
「なるほどなるほど。話は大体わかりました。しかしながら、惚れ薬はとても値の張るものでして、学生が買えるようなものではありません。故にこうしましょう。私の前でチョコレートを作ってください。そうしたら、惚れ薬をお譲りしましょう」
いつも通りの胡散臭い笑顔だったが、言っていることは違っていた。言葉巧みにどうにかして金を出させようと誘導するのがいつもの手口だ。だが、その言葉からは本当に惚れ薬を無償で譲ろうという風に聞こえていた。
「あ、そうそう。チョコレートを作っている最中、貴女にはその想い人へ思いの丈を語ってもらいましょう」
趣味の悪いことを思いつくものだ。この性根が腐っている店主は、女子高生が羞恥に悶えているところを見たい。それだけのように思えた。
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