裸の王様

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「しかし、嫌だというのなら仕方ありません。そのときはこの話はなかったことに」 「やります。やらせてください」  店主はより一層胡散臭い笑顔で、両手をぱんと叩いた。  次の日の同じ時間に、店の奥にあるキッチンでチョコレート作りは始まった。聞こえ悪く言ってしまえば、市販のチョコレートを湯銭で溶かし、生クリームなどをいれて固める程度の作業だ。だが、その手間と、手作りであるという何事にも代えがたい事実がチョコレートをおいしくする。 「さぁ、まずはその先輩との出会いから語っていただきましょうか」 「は、はい。あれは入学式の時、私が――」  こうしてチョコレート作りと共に、想い人への気持ちを語り始めた。一年生のときに先輩と出会い、同じ部活に入り、二年近く先輩を見てきた、想ってきたこと。聞いているこちらが恥ずかしくなるようなエピソードも混ぜて、時には言葉に詰まり、赤面して大声で語った。  そんな心の内を語り尽くす前に、チョコレートは完成していた。三日三晩かかっても語り尽くせないであろうその想いを前に、店主も「その辺でよいですよ」と言っていた。 「さてさて、こちらが惚れ薬になりますが・・・」  薄紫の液体が、洒落た小瓶に入っていた。それを完成したチョコレートの隣に置く。彼女はそれを手に取ることなく見つめ、何か考えている様子だった。
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