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「あっ、さっきのお客さん」と、彼女は胸を撫で下ろす仕草を見せてから、「すいません」となぜか突然謝ってきた。
「どうかしましたか?あっ、彼氏とかと待ち合わせ?」
「いえ・・・、違います。彼氏はいませんから。ただ・・・」と彼女は周りを警戒するように見回してから、「ちょっと・・・」と物陰に向かって歩き出した。
物陰に身を隠すようにすると、彼女は唐突に僕の方へ向いてから「実は、数ヶ月からストーカーに狙われているようで・・・」と震える声で呟いた。
「えっ!ストーカーですか?」と僕は答えてから、視線を回りに向けた。
「どんな奴ですか?」と聞くと、レナさんは震える声で「わかりません。ただ・・・」とだけ答えると、体を少し小刻みに震わせた。
「誰かに見られているという感じはあります。いつも、家に帰るとアパートのポストに脅迫めいた手紙が入っていて・・・」
「それなら、自宅の近くまでお送りしましょうか?」と僕は親切心から提案した。
「ありがとうございます。でも、今自宅には友達が一緒にいてくれるので大丈夫です。自宅近くの駅まで行けばなんとか」
そういって彼女は僕の目の前をすーっと抜けて改札を通り、ホームに消えて行った。
彼女が去って行った後の残り香が、僕の鼻を刺激する。
その香りは春を思わせる、『桜の香水』があれば、まさしくそれだろう。
彼女が自然に醸し出す誘惑の香りに、僕はいつしか虜にされていた。
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