響生、比奈、凪

2/7
前へ
/13ページ
次へ
 窓の外を見るともう桜が咲き始めている。それはつまり、3年生にとって、慶帝(けいてい)高校からの卒業が近づいているということだった。  どこか仰々しい名前のイメージ通り、慶帝はバリバリの進学校である。部活にはそれほど力を入れておらず、毎日が勉強の日々だ。  しかし、3年はほとんどの生徒が推薦などの形で進学先が決まっており、もう卒業の時を待つだけとなっている。教室内はこれまでの殺伐とした雰囲気を捨て、まさに大学生活を心待ちにする高校生たちでいっぱいだった。  一握りの、前期試験の合格発表を待つ生徒や後期試験に望みを繋ぐ生徒たちは今まさに机に齧りついて勉強していた。  森口 比奈(ひな)、葛西 響生(ひびき)、山口 凪(なぎ)。この3人は、校内ではある意味有名な仲良し三人組である。 「いよいよ卒業か~」 「どうしたん、比奈。なぁ~んか寂しそうやん」 「やめときなって。そんなの比奈、似合ってないよ?」 「ふ、二人とも酷いよ~!」  フワフワした比奈を二人がからかう。3年7組の日常風景だった。今まで自由奔放な彼女らに振り回され、多少なりとも不満を持っていた周囲も、「あぁ、いつもの三人だな」と心を和ませる。 「そうそう、卒業っていえば思い出した。昨日卒業ソング漁ってたんやけど、kUrEnAIが新曲出してた! 卒業ソングなのにイントロのギターがイイ感じで、弾いてみたいなぁ~って」 「ギターなら凪ちゃんだね」 「私かぁ~」 「まぁ、凪なら安心して任せられるわ。でもドラムはーーーあれはどんくさい比奈には無理やなぁ」 「むぅ、そんなことないよ!」  三人は現在バンドを組んでいる。高校で偶然三人が出会って作られた結成3年になるガールズバンドである。  今まで周囲が振り回された原因がそのバンドにあるのだが、現在は最初ほど印象は悪くなく、むしろ好印象なものとなっていた。  なんでも卒なくこなす凪はギター兼ボーカル。公開ライブのときなどは、その誰もが認めるセンスによってどんな曲でも完璧に弾きこなす。長い髪と高い背からお姉さんのような印象を持たれ、1,2年に慕う者が多い。
/13ページ

最初のコメントを投稿しよう!

0人が本棚に入れています
本棚に追加