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元々兄が触っていたという理由があり、響生はベースである。音楽初心者である三人をなんとか纏め上げ、演奏時もドラムとリズムをしっかり合わせていく(ソロの時は多少トリップする)。馴染みやすい性格から、全学年からの信頼が厚い。バンドを立ち上げるきっかけを作ったのも響生である。
そしてこのバンドのマスコットにしてドラムの比奈。普段はフニャフニャしているように見えるが、演奏になると鋭いスティック捌きを見せる。そのギャップと、小動物のような見た目から、同学年の女子に人気である(というより、守られている)。
このように、バランスが取れているのかいないのかわからない三人であるが、今までやってきた。
「どっちにしても、ウチらが別れる前に、スタジオで今まで弾いてきた曲全部弾いてみるとかしてみたいわぁ」
「それ楽しそうだね、いいかも」
響生の言葉に、比奈がパンッと手を叩いて賛同する。
三人の進路はもう決まっていた。響生は兄の後を追い音楽系専門学校、比奈は介護福祉系専門学校、凪も比奈と同じである。
「なら卒業式の後にしよか。全員暇やろうし」
「私はいつでもいいよ」
「………」
「なぁ、凪は?」
「えっーーーあぁ、ごめん。卒業式のあとだっけ? えーっと、うん。まだわかんないや」
「うーん、そうかぁ。なら、予定決まったらメールしてな」
いつもキッチリしている凪にしては、酷く曖昧な答えだった。二人はどこか引っかかるところを覚えながらも、なぜかそれを言葉に出すことはできずに三人は帰路についた。
◇
数日後。時間割は形式だけの授業や卒業式の練習などで徐々に短くなっていき、3年は昼前に帰ることになった。
響生は教師が出て行くと、教室内を見渡し二人の姿を探す。比奈は簡単に見つけ出せた。というより、他人より頭一つ低いから逆に目立っているのだ。しかし、凪の姿は見られなかった。凪は比奈と対照的に背が高く、いつも一番に目についていたのだが。
「あれ。比奈、凪は?」
「凪ちゃんなら先生が出て行った後すぐに鞄持って出て行ったけど」
「凪が? ウチらになにも言わんで?」
「うん…。なんか、凄い急いでるみたいだったけど」
比奈の顔を見る限り、よほど急いでいた様子で、なにか思うところがあったのだろうと響生は当たりを付ける。
「あの凪が焦るようなことか…」
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