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普段は冷静な凪の取り乱したりするところは、誰も見たことがなかった。この時点で、響生はその理由とはいかずとも、なに関連なのかに思い当たった。
それは比奈も同じだったようだ。
「そうだね…」
それは自然と漏れ出たものなのか、二人は同じタイミングでため息を吐く。そのため息がなんで出たのか、わからなかった。しかし、これからやるべきことに関しては、はっきりと二人は一致していた。
廊下を歩いてたどり着いたのは職員室だ。ここに、おそらく凪について知っている人物がいる。その人に話を聞くために、二人はここに足を運んだ。
響生がノックして扉を開ける。今は時間的に昼休みで、あの人ならいる可能性は高いを思ってきたのだが、やはり机に座って本を読んでいた。相変わらず教師らしからぬ姿である。
「楠先生」
「……ん? あぁ、お前たちか」
楠と呼ばれた教師は、いつも眠そうな目を本から離し、比奈と響生に向き直る。その光景に二人は意外そうな顔をする。
「んな顔するなよ。俺だって真面目な話をするときは真面目にもなる」
「ということは、やっぱり凪は家族関係で」
「そう話を急ぐな。話はあっちで、だ」
楠は給湯室の扉を指した。
給湯室に入ると楠は珍しく三人分のコーヒーを用意して、二人の前に置いた。先ほどからいつもと違う様子の楠に二人、特に響生は眉をひそめている。
「まあ、なんだ。お前らならいつか来るだろうと思ってた」
楠はすべてわかっていたというように、己の頭をさすりながら切り出した。少しバツの悪そうな顔をしているのは、今から話す内容が内容だからか。
「山口には、お前らが来たら全部話してやってくれと頼まれてるから、話してやるが。お前らは山口の家の事情を知ってるらしいな」
「はい」
「凪ちゃんから聞いてはいましたから」
凪の親は4年前に離婚しており、父親に関してはどこにいったかもわからない。それからは母親が一人で家族を支えているのだが、凪は4人兄弟で長女。苦しい生活を強いられているらしい、と二人は聞いていた。
「なら話は早いんだが。その山口の母親が、1月から病気で入院していてな。結構な手術が必要らしい」
「え…」
二人は親友が思っていたより深刻な事態に陥っていたのだと知り、思わず声が漏れる。楠はその様子をただ見ていた。
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