響生、比奈、凪

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 その至極簡単な一文に、凪の気持ちが全て詰まっていたような気がした。便せんの所々に涙のシミがある。最後の文字に至っては文字であるかもわからないくらいぐちゃぐちゃに書かれていた。  凪がこの手紙になにを込めたのかはハッキリとはわからない。けど、二人にとってこの手紙は、凪との永遠の別れになりそうな予感を抱かせた。  そんなことはさせない。二人の心は一致した。 「「先生」」 「ん? なんだお前たち?」 「先生には今までご迷惑をおかけしました。この慶帝高校でバンドを組むと言った時も、校庭でライブをしたいと言った時も、三度の文化祭でも色々とわがままを言いました。けど」 「もう一度だけ、迷惑をかけさせてくれへんやろか? ホンマに最後の最後、ウチらの我儘を」  普段からは考えられない比奈の目力、それに響生の震える手。楠は「はぁ」と再びため息を吐く。先ほどとは違う、なにやら嬉しそうな顔付きで、だ。 「ま、青春ごっこできるのも高校生までだ。好きにすればいいさ」  この言葉で二人もなんだか気持ちが昂ってくる。この言葉の中に皮肉っぽいものを混ぜてくるのが楠という先生だった。  そう、『いつも通り』でいい。別れなんて必要ない。 「んで、お前たちが頼みたいことって?」 「それなんですけど」  作戦会議が始まる。 驚くことに比奈と響生の考えていることはほとんど一致していた。「なんていうかお前ら、怖い」というのは楠の言葉だ。 そうして二人でハッキリとしたプランを立てた。実現できるかは二人次第であるが、これこそ卒業までにやりたかったことだと、二人が納得できるものだった。 しかし、楠が一つの問題を指摘する。 「お前ら、ギターはどうすんだよ」 「「へ?」」 「いや、山口はいないわけだから」 「あー! そうやん! なんか自然に凪がいると思うてしもうた!」 「ど、どうしよ響生ちゃん!」  衝撃の事実に気づいてオタオタする二人を見て、今日何度目だと楠はさらにため息を漏らす。 「はぁ、俺がやるか」 「え、先生が?」 「ギターはそんな簡単なモンじゃ」 「大学の時、5か月くらいだけ音系サークルに入ってギターしてた。それだけだよ」 「「えええぇぇぇ!」」
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