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卒業と始まりのサクラ
卒業式当日、3年生は胸に花を飾り体育館の前方に座っていた。今は校長の祝辞が行われていた。始まって10分以上経つにもかかわらず終わる気配はない。むしろ校長の口調が迫真的なものに変わっていき、彼一人が盛り上がっていく。
響生と比奈は、凄い進学校のはずなのに変な先生ばかりいるんだなぁとある意味感心する。二人の頭に浮かんできた候補の一人は今まさに欠伸をしている。非常に退屈な様子だ。あんな調子で大丈夫かと不安になってくる。
やがて校長の祝辞が終わり、次は別の人の祝辞などをして、卒業式は粛々と進行していった。
凪の方向へと視線を移すと、彼女はしっかりと壇上の人の話を聞いていた。真面目な凪らしい。
そして全校生徒による校歌斉唱。なにやら卒業式に似つかわしくない声量、しかし綺麗な声が響く。今度は音楽担当の教師だった。「そこは空気読もうよ」と比奈と響生は苦笑いをする。
しかし、響生は今からこれ以上に似つかわしくない声で歌わなければならないのだ。比奈と響生は視線を合わせ、互いにうなずく。覚悟は決まったということだ。
『以上を持ちまして、第〇〇回卒業証書授与式を閉式いたします』
教頭の言葉で卒業式は閉式した。あとは卒業生が退場するだけーーーーーではないのだ、今年の卒業式は。
『えーっと教頭、ちょっとマイクを拝借ーーーえ、あー、あー、皆さん聞こえてますかー?』
楠が教頭の持っていたマイクを奪い、勝手に言葉を続ける。卒業式に来ている卒業生の親はプログラムを確認する。しかしこれ以上のことは書かれていなかった。
『これより、慶帝高校学生バンドによるライブを行いまーす。生徒、親御さん、教師は全員その場で待機。以後連絡を待っといてくださーい』
楠の頭がついにおかしくなったかと、生徒たちは呆れ顔になる。同時に「学生バンドってあの三人か?」という声も飛び交う。
教師たちは止めに入らない。これが楠が頼まれていたことである。卒業式において二人が行うことに関しての教師たちへの説明と、了承を得ること。結果、それらは成功した。
実はこれまでの卒業式において幾人かの教師たちが馬鹿していたのは、二人の緊張をほぐすための作戦だったのだ。
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