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高校生活最大の激震が走ったのは、今朝のことだった。
あり得ない、あり得るはずのない事態に俺は混乱した。友達や教師たちの言葉は右から左に流れ、授業も身に入らず、気が付けば昼休みも通り越してあっという間に帰りのホームルームまで終わってしまった。このまま帰ってしまえばこの問題の先延ばしはできる。しかし、解決にはならない、むしろ肥大化しかねない。ならば俺は一体どうすれば……!
「どうしたんだよ、山本。頭抱えて」
「日ノ出(サンライズ)丸米……。いや、なんでもないんだ」
サンライズ丸米は野球部の正サードランナーコーチ。その眩しく輝く坊主頭は朝日のように俺たちの未来を照らしてくれる。でもそうだ、それでいい。こんなことに友達を巻き込むわけにはいかない。
「なんでもないってことはないだろ。お前一日中様子変だったぞ」
「千里眼(クリアボヤンス)委員長まで……」
クリアボヤンス委員長は俺たちだけでなく、教師からの信頼も厚い。その眼鏡は千里先まで見通し、俺たちを見守っていると言う。眼鏡を怪しく光らせながら俺の前の椅子に腰かけた。
「ほら、話してみろよ」
「……丸米」
全く、頭だけじゃなくて笑顔まで眩しいやつだぜ。
「でもお前ら、部活とか行かなくていいのかよ?」
「馬鹿だなぁ、山本は」
また別の友達が声をかけてきた。
「全体魅了(トータルチャーム)池面(イケヅラ)か。どういう意味だよ」
トータルチャーム池面はその名の通り、見るもの全てを魅了する。その力はついに次元の壁を破ったとも噂をされている。そいつの台詞に食ってかかる。池面は俺の隣に来ると、顎をクイっと持ち上げた。そして優しく微笑む。
「大切な友達を……俺たちが放っておけるわけないだろ?」
「……池、面!」
流石数百の女を落としてきた池面だ。少女漫画も顔負けの煌びやかな背景を作り出しやがって。男の俺まで胸の鼓動が高鳴っちゃうぜ。
「進路相談の順番待ちのついで、だけどな」
委員長が眼鏡を持ち上げる。そういえば俺も今日だったか。
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